夢と現実いったりきたり

舞台『ダブル』

 

@紀伊國屋ホール

 

STORY

天性の魅力で徐々に役者としての才能を開花させていく宝田多家良と、その才能に焦がれながらも彼を支える鴨島友仁。互いに「世界一の役者」を目指すライバルでありながらも、どうしようもなく惹かれあう二人の関係を繊細かつ大胆に描く。

 

感想

 原作から台詞を引いてきて雑にまとめると「私の『ダブル』を返せ」だし「誠実にやりましょうよ」って感じだった。別に『ダブル』はわたしのものではないので、あくまで「わたしにとっての理想の『ダブル』」でしかないのですが。わたしは原作漫画が好きで柿喰う客も好きで、友仁さんは玉置さんにやってほしい! 演出は中屋敷さんで! と舞台化が決定する前からずっと言っていたのだけど、蓋を開けてみたらなんか求めていたものと違うものが出てきたぞ、という話です。原作が未完結というタイミング、見せ方、座組、すべてがあんまり噛み合ってなくて、原作に感じていた魅力が削ぎ落とされてまるで別の話のようになってしまっていた。そもそも原作が未完結の状態でどう落とすかってものすごく難しい問題だとは思うんだけど、着地点がいまいちで、あれだと多家良と友仁の世界がやんわりと収束してしまったように思える。そんな話だったっけな。

 まずはなによりも脚本と演出にピンとこなかった。脚本家と演出家が別になっているとき、誰にどこまで責任を問うべきかわからなくなるのだけど、場面設定を「宝田多家良の引越し後のお高いマンションの部屋」ワンシチュエーションでいこうというのは誰が決めたんだろう。すべてはこの場面設定にこだわったせいな気がしている。ガチガチにセットが組まれていて場面転換はできないし、セットも小道具も全部そこに「ある」ので想像の余地もなく、その中で話を展開させるって縛りプレイにも程がある。ワンシチュエーションでやるお芝居はどちらかといえば好きなんだけど、今回に関しては効果的に働いているとは思えなかった。家の中でしか物語を展開させられないから、家の外で起こったことは登場人物の台詞で説明されてしまい、単調にならざるをえない。過程が省かれて結果だけを見せられているという印象だった。

 そこを演出で埋められてるかというとそれも出来てなくて、というかあそこまでガチガチにセットを組んでしまっていたら演劇における最大の武器(だとわたしが思っている)である想像による補完やそれによる跳躍ってなかなかできないわけで。だから謎のプロジェクションマッピングを出してくるしかなかったのだろうか。せめてセットを作り込まずにやってれば演出の自由度が上がったんじゃないかと思う。演出は率直に言うとものすごくダサい。柿喰う客が好きだからあんまり言いたくはないのだけど……とはいえダサい。スクリーンが半分降りてきてLINEの画面が出てくるのもプロジェクションマッピングみたいなセットへの投影も雪山の映像も、なんならライトの使い方までダサくない? と思った。小池修一郎版のロミジュリくらいダサい。ロミジュリのことは憎しみつつも愛しているのですが。憎しみで思い出したけど、舞台『ダブル』には憎しみの感情が足りなかったなと思います。

 漫画『ダブル』が好きな理由のひとつに、(他の漫画だとややサムくなりがちな)「天才」の表現に真実味がある、というところがあるのだけど、そこがすごく雑だったと思う。多家良の役者としてのすごさを友仁や九十九の台詞で説明しちゃうのってナンセンスすぎないか。役者の力量が足りないっていうならそこは見せ方で補うべきで、これは本当に脚本/演出側に責任があると思う。天才性の説明だけじゃなく、人格や役者としての声質の掘り下げが十分でなかったと思う。そのせいで、宝田多家良という人物が虚像のように見えてしまっていた。虚像が葛藤してる姿を見せられてもどうしたらいいかわからない。人間の姿が見たい。

 雅成の多家良はキャスティング発表時点でイメージがないな、と思っていたし、実際多家良かと言われたらやっぱり違うとは思う。多家良として芝居をする場面になると芝居の粗が目立つのも惜しかった。そしてあれだけ熱望していた玉置さんの友仁も自分の中の友仁像と違って、玉置さんがやると妙に魔性になってしまうんだなという。玉置さんはお芝居が最高なので、最高がゆえに「凡百な役者である友仁」というのに無理が出てこないか? という懸念はあったけど、実際に芝居をする友仁を見ていると、この人は才能あるだろ、売れるだろ、と思ってしまった。それってつまり友仁ではないんだよね。多家良とのパワーバランスが歪になっているのも気になったけど、たとえ玉置さんよりうまい人を持ってきて友仁-多家良間のパワーバランスがとれていたとしても友仁単体の設定としてはやっぱり破綻するので、そもそも難しかったんじゃ、という気がする。でも玉置さんのお芝居の声には本当に惚れ惚れしてしまう。

 つかこうへいへの解像度が高ければ、みたいな感想も見かけるけど、解像度が低い身*1としては漫画『ダブル』の舞台化なんだから舞台『ダブル』単品としてまず面白くしてほしい。本当になんでこのタイミングで舞台化したかよくわからなかったな……。まあ全部オートロックのマンションのせいということにして忘れましょう。

 結果、敬三さんの好感度が爆上がりして終わったなという感じです。敬三さんって最高。

*1:つかこうへいは『改竄・熱海殺人事件』と『銀ちゃんの恋』くらいしか観てないし好きでも嫌いでもない