夢と現実いったりきたり

ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』

@日生劇場

 

STORY

エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊が、イスラエルの空港に到着した。彼らはペタ・ティクヴァのアラブ文化センターで演奏するようにと招かれたのだった。しかし手違いからか、いくら待っても迎えが来ない。誇り高い楽隊長のトゥフィーク(風間杜夫)は自力で目的地に行こうとするが、若い楽隊員のカーレド(新納慎也)が聞き間違えたのか案内係が聞き間違えたのか、彼らの乗ったバスは、目的地と一字違いのベト・ハティクヴァという辺境の街に到着してしまう。
一行は街の食堂を訪れるが、もうその日はバスがないという。演奏会は翌日の夕方。食堂の女主人ディナ(濱田めぐみ)は、どこよりも退屈なこの街にはホテルもないので、自分の家と常連客イツィク(矢崎広)の家、従業員パピ(永田崇人)と店に分散して泊まるよう勧める。
トゥフィークとカーレドはディナの家に案内される。部屋でくつろいだ後、トゥフィークはディナの誘いで街をみて廻ることにする。レストランに入った二人は、音楽について語り合い、少しずつ打ち解けるが、ディナと関係を持つサミー(渡辺大輔)と彼の妻(友部柚里)が現れると、ぎこちない空気になる。
トゥフィークの筆頭部下のシモン(中平良夫)とカマール(太田惠資)は、イツィクの家に招かれる。義父のアヴラム(岸祐二)は共に食卓を囲んでもてなすが、イツィクの妻イリス(エリアンナ)は、誕生日に見知らぬ人たちを連れてきた夫に不満が募る。おとなしい楽隊員を前に話は弾まないが、話題が音楽のことに向くと、ようやく場がなごんで来る。
カーレドは外に出ると、店の前で待ち合わせをしているパピに出くわす。パピは、友人ツェルゲル(青柳塁斗)とその彼女アナ(髙田実那)に紹介されて、ジュリア(山﨑薫)と四人でデートをするのだ。カーレドは嫌がるパピに頼み込んで、一緒に街に連れ出してもらう。警備員(辰巳智秋)にすごまれながらも、スケート場で遊びはじめる五人だが、女性に慣れていないパピは、ジュリアを泣かせてしまう。カーレドはパピの指南役となり、手取り足取り彼女を慰めさせる。
公衆電話の前では、彼女からの連絡をひたすら待ち続ける電話男(こがけん)が立っている。店の外では、楽隊員たち(梅津和時、星衛、常味裕司、立岩潤三)が、思い思いに音楽を奏でている。言葉も文化も異なる隣国の人間達が交わる一夜が、更けていく。
迷子になった警察音楽隊は、果たして演奏会に間に合うのだろうか?

 

感想

 舞台美術とか照明とかはめちゃくちゃよかった。盆が回ってればなんでも好きな人みたいになっちゃってるけど、盆は回らないより回るほうがいい。めぐさんの歌は言わずもがなで、新納さんのあの着こなしっぷりもなかなか真似できないと思う。観劇前に、日生劇場のキャパであえてあのささやかな物語を上演することについて触れた新納さんのインタビュー(どの記事だったか失念)を読んでいて、大味でド派手なものよりもささやかで細やかな方が好みなので期待していたのだけど、いまいちハマりきれなかった。

 女性の描かれ方をいまいち素直に受け止めきれなかったなと思う。トゥフィークがディナを諌めるところは理由を説明されてもやっぱり納得がいかない。なぜディナがサミーを許さないといけないのだろう? おそらくワンマンで子育てをしているのであろうイリスの神経の張り詰め方、緊張の糸がぷつっと切れたような泣き出し方も見ていてひたすらつらくて、夫であるイツィックに対していろいろ思うところがあるけど、(すべては説明されないけれど)イツィックも背景にいろいろあるのかな……と思ってしまった不思議。矢崎広という役者のチャームに惑わされている可能性が高い。ここの「すべては説明されない」というのはこの作品の良かったところで、だっていくら友情や何かしらの絆が芽生えたとしてもたった一夜の交流で自分の事情や心情をあけっぴろげにする人なんてほとんどいないから。すべてを打ち明けていなくても、ささやかな交流によって少しだけ何かが変わる──たとえその場では変わったように見えなくても、ほんの数ミリだけ軌道が変わることを描いているところは好みではある。

 ディナによるエジプト人への視線も少し居心地が悪くて、退屈な街で育ったディナがテレビやラジオから流れてくる異国の文化に惹かれるのもわかるんだけど、その視線はちょっとフェチ化的では……と気になった。

 それにしても席が埋まってなさすぎていたたまれなかった。本当に商業演劇って難しいなと思う。