夢と現実いったりきたり

ミュージカル「東京ラブストーリー」

@東京建物Brilliaホール

空キャスト

永尾完治:柿澤勇人
赤名リカ:笹本玲奈
三上健一:廣瀬友祐
関口さとみ:夢咲ねね

 

▲どうでもいいけど公式HPのURLが「LOVE2022」で、そんな♪LOVE2000 みたいに言わないで!って思った

 

 

STORY

2018年春。愛媛・今治に本社のある『しまなみタオル』の東京支社に異動になった永尾完治は、アフリカ育ちの天真爛漫な女性・赤名リカと共に新プロジェクトを任される。 ある日、既に上京していた地元の高校の同級生・三上健一に会いに行くと、完治が高校時代から想いを寄せる、関口さとみもやって来た。 昔話で盛り上がりつつも、予想外の再会に動揺する完治。そこに突然、リカが現れた。……この夜、恋が動き出す。

 

 

感想

 発表された時点でたぶん合わないやつだなって確信めいた予感はあったんだけど、そもそも『東京ラブストーリー』のことすら(ドラマでも漫画でも)全然知らないのに、観ずにあれこれ言うのも……と思って。同じホリプロ×ジェイソン・ハウランドのミュージカル『生きる』も見てみたらいい作品だったし、食わず嫌いしちゃだめだよね!って思って。タイトルがタイトルだからなのか、宣伝の力の入れ方が若干空回ってるのとか、稽古場映像から察せられる作品の雰囲気とかを見るたびに「たぶん合わない」が「ほぼ確実に合わない」に変わっていったんだけど、観てみたらよかったみたいなことが…………ありませんでした。

 脚本も演出も全然よくなくて、「たくさん歌が聴ける」と「廣瀬友祐がずっと面白い」以外になにも言えない。廣瀬は本当にずっと面白い。もともと海宝くんでとってた『太平洋序曲』の廣瀬回も追加で取ったくらいには廣瀬友祐に夢中になってしまったことには感謝してる。

 上演数分前から赤いドレスの女性ダンサーが舞台上で踊り出した時点でなかば覚悟を決めてたけど、この作品、とにかくアンサンブルがめちゃくちゃパキパキ踊る。「東京」という場所の独特の活気、誰もが主人公!みたいなことを表したいのかなとは思ったけど、とにかくこのダンスのせいで舞台が散らかって見えて、視線誘導もうまくいってないからこっちが努力して本筋の芝居を追おうとするんだけど、そうするとちらちら視界に入ってきて集中を邪魔してくる。正直ストレス。脚本も、おそらく原作は「地方から出てきた主人公たちが東京と地方に抱く複雑な感情と彼らの恋愛模様の二重写」がテーマになってるんだと思うんだけど、肝心の憧憬やコンプレックスの描写が不足しているので登場人物の行動や葛藤に説得力が出なくて、とにかく作品として薄い。わたし自身が地方出身で「東京」に対する妙な幻想とコンプレックスを潰すために上京してきたクチだからそこの複雑な気持ち自体はわかるけど、彼ら自身の「なぜ地元を出て東京にいるのか」の背景を作品内でしっかり描いてほしい。冒頭にちらっと台詞で出てくるけど本当にそれだけで、その後の展開に活かされたりもしないというのはどうなんだろう。

 時代設定を現代に変更したのもいまいちよくない方向に作用してたと思う。もしかして単に数字を置き換えただけで他は手を加えてないのかな? 原作通りの時代設定なら「まあ昔はこうだったのかもね……」と思えた(かもしれない)けど、現代の物語として観るとどうも違和感があった。なによりも、赤名リカが背負(わされる)う「東京」が、いまわたしが見て・感じている東京という街の姿と合致しないために、おそらく当時はリアリティをもって受け止められたのであろうこの物語が実体のない空虚なもののように映ってしまうのが痛いポイントだった。

 そもそも東京で生きることに息苦しさを感じている赤名リカに「東京」を背負わせるなよ、とも思ったし。しかも赤名リカ消滅エンドって、これもしかして「意味がわかると怖い話」とかそういう類の話なの?

 

 この作品で世界進出うんぬんとドヤ顔をしていたのかと思うと腹が立ってくる……。なんなんまじで……。しかもこのタイミングでの上演ということで、演劇を普段あまり観ない人が『鎌倉殿の13人』で柿澤さんを知って、他でもないブリリアで『東京ラブストーリー』を観ることになったかもしれない……と思うと本当に胸が痛む。ホリプロの罪は重い。ミュージカル『東京ラブストーリー』のことは嫌いでも、ミュージカルのことは嫌いにならないでください。