夢と現実いったりきたり

2023年3月のまとめ

 だいぶ追いついてきました。3月はミュージカルに偏っていたようです。

 

 

舞台

ミュージカル『太平洋序曲』

 

ミュージカル『RENT』

 

ミュージカル『ジキル&ハイド』

 

ミュージカル『マチルダ

 

お笑いライブ

週末無限大ネタライブ

@ヨシモト∞ホール

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 どうしても出囃子が聞きたい! と思って急遽入れたせいでこの日の予定がみちみちになってしまった。芸人の出囃子という文化、最高だと思う。何のネタをやったかメモしてるはずなんだけど、Twisaveが使えなくなって引っ張ってこれなくなってしまった……。ローカルにメモしておくべき。小野さんが野澤さんの家族構成をものすごく丁寧に教えてくれたおかげでライブが押した。

 

笑神籤対策ライブ

@武蔵野公会堂

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 初のよしもと以外のライブ。なんとなく非よしもとのライブの方が好きな気がしていたのでうれしい。ダイヤモンドは発音のネタ。ちょっとひやっとするところはあるんだけどネタの方向性としてはすごい好きで……。胸ポケットから登場した長いちいかわと、TCクラクション兄さんの存在に夢中になっちゃった。

 

ダイヤモンド×ヨネダ2000 ツーマンライブ『ドッグトレーナー愛』

@ヨシモト∞ホール

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 ヨネダにつられた友達と一緒に。ダイヤモンドは東京メトロ、お金持ちの呼び方(ちゃん/ちゃま)、モノマネのカウントダウンの3本。東京メトロ以外は新ネタだったらしい。まだふわっとしてたけどカウントダウンはかなり好きな感じ。2組3本ずつ+コーナーで1時間だからなんだろうけど、わたしの中では「ネタに入るまでが長いひとたち」って印象づいてしまってたからさくっとネタに入ってると新鮮な気持ちになる。コーナーでとってもかわいい犬のぬいぐるみが出てきてメロメロになってしまった。ヨネダが相手だからなのかほんわか空間が出来上がってた中に燦然と輝く(?)小野さんの対野澤さんのバイオレンスはなんなんだ。友達が楽しんでくれたようでよかったです!

 

ミュージカル『マチルダ』

@東急シアターオーブ

 

STORY

5歳のマチルダは、図書館にある難解な本も全部読みつくしてしまうほど、高い知能と豊かな想像力を持った少女。しかし両親はそんなマチルダに関心を全く示さず、家庭は辛い場所だった。図書館に居場所を求めたマチルダは、そこで教師のハニー先生に出会う。
翌日、マチルダとハニー先生は学校で再会する。ハニー先生はすぐにマチルダが「天才」である事に気づき、その才能を伸ばしたいと願う。しかし学校は、校長先生のミス・トランチブルが恐怖で子どもたちを支配する「監獄」のような場所だった。
チルダは自らが持つ不思議な力を駆使して、子どもたちを苦しめる大人たちに仕返しを試みる。自身も苦しい子ども時代を過ごしたハニー先生は、マチルダの良き理解者となり、いつしか二人の絆は固いものになっていく――。

CAST

寺田美蘭/小野田龍之介/昆夏美霧矢大夢/田代万里生⇒斎藤准一郎*1/岡まゆみ

 

感想

 とても楽しみにしていた作品。初見で観たかったので、Netflixの映画版を見るのも控えておいた。内容を詳しく知らないのに楽しみにしていた理由が、♪Naughty というナンバー。制作発表の歌唱で初めて知って(もしかしたらこれまでに聴いたことくらいはあったかもしれない……けど、歌詞を知ったのは初めてだった)観ておいた方がいい気がした。「人魚姫*2ロミオとジュリエットといった物語の主人公たちがたどる悲劇的な運命をなぜみんな変えようとしないのか。正しくない/不公平なことは変えなければならない。シンデレラみたいに魔法使いがあらわれて救ってくれるのを待つんじゃなくて自分で動くべきだ」という内容で、どんな状況で歌われる曲なのかも知らなかったけれど、いまの自分(たち)に必要な勇気をくれる曲だなーと思ったのです。

 

 生まれた瞬間から両親に存在を否定され続けてきたマチルダが、♪Naughty で歌われる通り、自分の不公平な人生を書き換える話……というと少し語弊があって、実際にマチルダが書き換えたのは小学校で出会ったハニー先生の人生だから。

 家に居場所のないマチルダは図書館に通い詰めていて、同世代のこどもより格段に頭がいい。だけど、マチルダの頭の良さを両親は決して認めない。図書館で働いているフェルプスさんはマチルダを奇跡として扱ってくれるけれど、マチルダの家庭環境を「ふつう」の家庭だと信じているフェルプスさんに対して、マチルダは本当のことを話せない。これは現実でも往々にしてあることだと思う。「この人はきっと『ふつう』の人だ」と思うと、自分の「『ふつう』でない」部分を見せられないことがある。フェルプスさんはいい人だ。だけど話せない。ハニー先生はそんなマチルダに初めて手を伸ばしてくれた人。ハニー先生から、マチルダのためにできる限りのことをしようと思う、と告げられて、ハニー先生にぎゅっと抱きついたときのマチルダの姿が忘れられない。マチルダは「賢くてひとりでも現実に立ち向かっていける強い子」という一面ももちろんあるかもしれないけれど、やっぱりこどもはこどもなのだ。「ひとりでも立ち向かっていける」んじゃなくて、ハニー先生と出会う前の彼女は「ひとりで立ち向かうしかなかった」んだ、ということに気がついたあとに♪Naughty を聴くと、響きが違ってきこえる。〈誰も動いてくれないし 変えられるのは自分だけだし〉なんて、本当はこどもに歌わせちゃいけない。最初はそんなふうに歌っていたのに、蓋をあけてみたら「マチルダとハニー先生がお互いのために動き、お互いの人生を変えて、手を取り合って生きていく物語」だったというのは、その方が「正しい」からそう書き換えたってこと、だと思う。もちろん♪Naughty は相変わらず好きな曲だけど、この曲は単体で完結するわけではないのだな。

 トランチブルを撃退する決定的な方法がマチルダの超能力だったことに対して、こどもが大人の理不尽な支配から抜け出すのってマジックパワーでもなければ難しいのか?  と考えて本筋じゃないところで少しつらくなったりもしたんだけど、ここはなんでなんだろう。誰しもシンデレラみたいに助けてくれる魔法使いがいるわけじゃない、って言っていたマチルダ自身がハニー先生の魔法使いになるってことなのか? マチルダが超能力ではなく自分の努力と賢さによって家族を助けたことで知識や学びが肯定されるのはよかった(かなりコメディして回収されてたけど)。学びが肯定されてると泣いちゃうよね……。

 演出については、海外の演出を完全にそのまま持ってきている、という感じなのかな。無駄な時間ができないようにみっちりと詰められた密度の高さで見応えがあった。クオリティも物語も「安心して観られるミュージカル」という感じ。(アフタートークで小野田くんが似た趣旨の話をしていたけれど)歌詞や台詞のひとつひとつの言葉を落としてはいけない作品なので、演じる側はすごく気をつかうだろうし、訳詞もものすごく難しいだろうなと思った。♪School Song(順番にアルファベットが出てくる)なんかは本当に大変な仕事だと敬服した。

 とてもよいミュージカルだったけれど、「お話」を観ている、という感じが終始あった。劇場で舞台を観ていると舞台上の出来事が現実に迫ってくる、自分が客席にいるという感覚を忘れる、ということも多いのだけど(感覚的なところだから難しいけれど、没入感とはまた違う感覚)、観ている場面に枠がついて見えているというか、あくまでこれが「お話」であることを意識しながら観ていたな、と。ファンタジー色が強かったからかな? 

 昆ちゃんハニー先生の歌の表現が本当によくて、小野田トランチブルオンステージも楽しかった。そして子役のパワーがあふれている、広く長く観られてほしい作品だった。

*1:休演による代役

*2:原詞ではマザーグースジャックとジル

ミュージカル『RENT』

@シアタークリエ

 

STORY

1991年、ニューヨーク・イーストヴィレッジ。映像作家のマークは、友人で元ロックバンドのボーカル、ロジャーと古いロフトで暮らしている。夢を追う彼らに金はない。家賃(レント)を滞納し、クリスマス・イヴにもかかわらず電気も暖房も止められてしまう。恋人をエイズで亡くして以来、引きこもり続けているロジャー自身もHIVに感染しており、せめて死ぬ前に1曲後世に残す曲を書きたいともがいている。ある日、彼は階下に住むSMクラブのダンサー、ミミと出会うが彼女もまたHIVポジティブだった。一方のマークはパフォーマンスアーティストのモーリーンに振られたばかり。彼女の新しい相手は女性弁護士のジョアンヌだ。仲間のコリンズは暴漢に襲われたところをストリートドラマーのエンジェルに助けられ、二人は惹かれあう。季節は巡り、彼らの関係もまた少しずつ変わってゆく。出会い、衝突、葛藤、別れ、そして二度目のクリスマス・イヴ……

CAST

花村/古屋/遥海/SUNHEE/RIOSKE/鈴木

 

感想

 東宝制作の『RENT』は2015年版から毎回観ているので、ストーリーや演出について改めて書くことは特にないのだけど(演出もずっとマイケル・グライフだし、ほとんど変わってない……はず。毎回一度しか観ていないので自信はない)、個人的に今年は『RENT』の作者ジョナサン・ラーソンの自伝的ミュージカル映画『Tick, tick...BOOM!』を視聴してからの観劇だったので、楽曲や込められたメッセージがより一層受け取りやすかった。あんまり作者と作品を紐づけて語るのもどうかとは思うが、『RENT』に関しては2015, 2017, 2020, 2023と四度目なので、そういう切り口で見るのもありなんじゃないかと。いわゆる「RENTヘッド」ではないのだけど、特別好きな役者が出ているわけでなくても『RENT』が上演されるなら観に行こうと自然と思うくらいには好きな演目。

 1989年当時の「いま」を描いた作品だから、現代のスピード感からするともはや古典と呼んで差し支えないと思う。実際、1989年のニューヨークの話なんて2023年に日本人が前知識なしで観たらきっちり理解できるものではないし、(今年のパンフレットは読んでいないからわからないけど)パンフレットに用語集を載せる必要がある作品なのだけど、その一方で『RENT』が伝えるメッセージは色褪せない。それがこの作品の持つパワーだと思う。

 普段から映画版のサントラを聴き込んでいるほど楽曲も好き。ただ、劇場で聴くと歌詞が聞き取りづらいものもある。特に♪RENT は曲調と訳詞の問題もあるのか、歌詞はあんまりわからないな、と思いながら聴いているけど、あのイントロとライティングを浴びたときの「ついに始まった!」というわくわく感が上回る。一言一言を落とさずに伝えるような演目でもない、というのもあるし。あとは『RENT』が(一応マークが主人公とされてるけど)群像劇だからなんだけど、それぞれの物語が同時進行したり複雑に絡み合う曲も多いので、一回観るだけではすべてを完璧には理解できないのだけど、そういう曲こそ面白くて好きで。むしろ、だからこそ『RENT』のキャラクターたちの誰もが脇役にならずに群像劇たりえているという因果関係なのかもしれない。♪Christmas Bells とか本当に素晴らしい曲だと思う。

 今回は実はキャストにこだわってチケットを取ってみた。といっても、「可能な限り見たことのないキャストの組み合わせ」という方面のこだわり方なのだけど。幸運なことに2020年も中止になる前に観劇することができたので、今回はそのとき見れなかった逆のキャストがほとんど。わたしはマークへのこだわり……というか村井良大という強固な理想像があるので、なかなか理想のマークには出会えないなと思ってしまうところはあるけど、他のキャラクターについては比較的いろいろな解釈を楽しんで見られるから演じ手が誰であっても楽しい。古屋ロジャーは、ロジャーに対して「ガキだ!」と思ったのが初めてだったし、そんなロジャーを引っ張って包み込める強さとパワフルさのある遥海ミミという組み合わせがけっこうはまっていたと思う。遥海ミミは強いんだけど、その強さの内側にある叫びみたいなものを感じて初めて♪Out Tonight で泣いた。

 RIOSKEエンジェルはかわいさや柔らかさよりもかっこよさが目立つのが新鮮なエンジェルだった。エンジェルは一番好きなキャラクターというわけではないのだが、エンジェルの死というのは『RENT』におけるストーリーの転換点になるので、今回のエンジェルのことも愛せるだろうか? と毎回どきどきする。他のキャラクターによるエンジェルとのエピソードや、コリンズの♪I'll cover youリプライズで心が動かされるかどうかは(他の役者の力量ももちろんあるけど)やっぱりエンジェルをどれだけ愛しく思えるかにかかってるから。でも人によって全然違うアプローチなのに、毎回しっかり愛しくなるから不思議。

 あとはやっぱり吉田ベニー!『RENT』ではマークとベニーが好きなので、ベニーの動きを追って見る場面も多かったのだけど、吉田ベニーって特に憎めなくてかわいげのあるベニーだなと思う。ベニーはいいやつというわけではない(ホームレスを排除したり、ミミとの関係を嫌なかたちで暴露したりとかは最悪)けれど、ただのイヤなヤツ、というあり方はしてほしくない。サイバースタジオの話も、マークたちを立ち退かせるための方便じゃなくてベニーなりに現実に立ち向かうための選択だったということが台詞や態度に滲んでいてほしいので、吉田ベニーのかわいげはけっこう好きだった。基本輪から弾かれてしまうので、話にがっつり絡んでくる場面は限られているけど、よくよく見るといろんな曲に登場して一緒に歌ってたりもする。♪Will I を歌うベニーの姿に、ベニーの無くした尊厳のことを考えてしまう。これ同じことを毎回言ってる気もするけど……。

 結局、今年も泣くべきところで泣いた『RENT』だった。これからも上演のたびに観に行くことになる演目だろうし、次に来日版があったらそれも観に行きたい。日本版のキャストも好きなんだけど、どうしても人種の多様性が出づらいキャスティングになってしまうのが歯がゆいところなので……。ところでここまで書くタイミングがなかったので最後に書くけど、アンサンブルキャストの中でも長谷川さんとチャンへさんが特に良かった。歌声が響く人はいいな。

ミュージカル『太平洋序曲』

@日生劇場

 

STORY

時は江戸時代末期。海に浮かぶ島国ニッポン。
黒船に乗ったペリーがアメリカから来航。
鎖国政策を敷く幕府は慌て、浦賀奉行所の下級武士、香山弥左衛門(海宝直人・廣瀬友祐)と、鎖国破りの罪で捕らえられたジョン万次郎(ウエンツ瑛士・立石俊樹)を派遣し、上陸を阻止すべく交渉を始める。
一度は危機を切り抜けるものの、続いて諸外国の提督が列を成して開国を迫りくる。

目まぐるしく動く時代。
狂言回し(山本耕史松下優也)が見つめる中、日本は開国へと否応なく舵を切るのだった。

 

感想

 山本・廣瀬・立石回、松下・海宝・ウエンツ回で2回観劇した。海宝くんを観ておきたいというのと、『鎌倉殿の13人』であまりに男役すぎると身内の間でだけ話題になっていた山本耕史をせっかくミュージカルで見れるというのと、ミュージカル『東京ラブストーリー』でわたしを夢中にさせてくれた廣瀬への感謝と……と考えていたら全キャスト見られる組み合わせでうまいこととれた。音楽はスティーヴン・ソンドハイム、脚本はジョン・ワイドマン、演出はマシュー・ホワイト。今回のプロダクションは梅芸とイギリスのメニエール・チョコレート・ファクトリー劇場の共同制作らしい。「初の」コラボレーションと言うからには今後も継続してやっていく計画があるのかな?

 「アメリカ人が作った日本の開国の話」と聞いて、日本という国のあり方がシニカルに描かれるだろうというのは予想がつく。いくら客観視してみたところでわたしは日本という国の内側で生まれ育った人間なので、外側からどんなふうに描かれるのか、というところに興味があった。曲もソンドハイムだし、キャスト的にも外さないだろうと。余談だけど、クリエでジョナサン・ラーソンの『RENT』、日生でソンドハイムの『太平洋序曲』が同時に上演されていたのがうれしい。

 と、期待値は高かったのだが、終演後に頭を占めていたのは「これはどう見るべき作品なのか」という困惑だった。途中まではやや気になるところ──たとえば妻・たまての死に方(ショーアップされる女の死!)、♪Please Hello に見られる各国のステレオタイプな表現(風刺画のようなものだと思えばいいのだろうか?)、香山と万次郎の関係性を見せたいのか見せたくないのか判断がつきかねるキャラクター描写など──はありつつも、演出がミニマルで綺麗だなと思っていたのだが、ラストの♪Next で急にものすごくダサい映像演出が出てきて愕然とした。演出がダサいのは一旦置いておくとしても、この♪Next という曲が皮肉としてきっちり効いていないというのが問題だと思った。ここをしっかり皮肉として効かせないと、「欧米列強から無理に開国を迫られた日本が自らも帝国主義に染まり、アジアを侵略しようとしたことを肯定している」という受け取り方が可能になってしまうから。『太平洋序曲』では日本の(はたから見たら)おかしなこだわりを皮肉りつつも、そんな日本に表向きは甘い言葉で近寄りながら開国させた帝国主義の暴力性も描こうとしている*1のは明らかなので、観客全員が♪Next を皮肉として受け取れなかったら失敗だと思う。

 狂言回しが紹介してくれる日本って変な国!描写(♪The Advantages of Floating in the Middle of the Sea)は笑えたけど、♪Welcome to Kanagawaはグロテスクで笑えなかった。開国を商機ととらえたおかみが田舎の少女たちをつかまえて芸者として仕込む、って描写は正直現代の日本と遠くないところにあるからきつい。きついなきついなと思っていて、少女たちのおてもやんメイクとか男性が一人混じって演じてるのとかはどういう意図なのかつかみ損ねた。

 「お話」に没入して楽しむタイプの作品ではないので、集中力が続かないとなかなかしんどいかも。当日のコンディションが万全ではなかったとはいえ*2、2回目の観劇ではうつらうつらしてしまったのが残念。個の人間を描く芝居ではない中、香山と万次郎の関係性だけは少しウェットに描かれるものの、そこは個を描ききれないならいらなかったような。関係性を見せるなら万次郎の大和魂への目覚めに脈絡が見えないといけないと思うし。香山と万次郎が逆(というのも正確な表現ではないが)の人間になっていくというしかけそのものが大事なのであってふたりの人格は大事ではない、と考えないと、人間の描写がものすごく下手な脚本ということになってしまう。ふたりの最後の対決もチャンバラショーを見せたかっただけじゃない? って穿った見方をしてしまったのだけど、実際のところどうなんだろう。チャンバラとたまての死に姿が出てきたところでちらっとオリエンタリズムが過ぎったかも。

 ただ、曲や歌唱にはかなり満足だった。プリンシパル以外のキャストもみんなうまくて、音楽の意図を正しく伝えられるキャストが演じるとこんなにも気持ちよく響くものなんだなと感動した。特に♪Four Black Dragons 冒頭の漁師ソロを担当していた染谷さんが本当に素晴らしかった。観に行くか迷っていた『ダーウィン・ヤング』(2023年6月上演)にも出演されると知って、すぐにチケットをおさえた。曲はやっぱりソンドハイム自身もお気に入りだという♪Someone in a Tree が美しくて面白くて好き。ダイヤモンドの「クイズ王」というネタがあるのだけど、それを彷彿とさせるような、結局何も明らかにならない曲。

 キャスティングでいうと、朝海ひかるさんを将軍に据えた意図がいまいちわからなかった。コムさんはそれはそれはかっこいい男役さんだったのだが(わたしは歴代の雪組トップが本当に好きなのです)、そのバックグラウンドが活かされる役柄でもないし、「元男役」ではなく女性が演じることによる効果も考えたけどあまりわからなかった。迫られる女のたとえ、とかも考えたけど、じゃあ可知さんの老中はどうなるんだという話なわけで。過去の公演でオールメールでやっているのは歌舞伎を意識した演出だってわかるんだけど……単に男女比率の問題なのかも。山本耕史はかなり男役ポイント高くてよかったです。

 

*1:♪Please Hello での各国の描き方や、米国人が日本人の女性に甘い言葉で近寄って乱暴を働こうとする♪Pretty Lady が挿入される

*2:ジキハイとのマチソワだった

2023年2月のまとめ

 4月が始まってしまったけどまだ間に合う。ということで2月の現場です。

 

ダイヤモンドベストネタライブ『原石』

@ルミネtheよしもと

ネタ一覧

01. レトロニム
02. 手漫才
03. 半
04. ドライブ
05. 火星人キック
06. 結婚式
07. 球野
08. ラーメン屋
09. 竹ブラジル
10. つかみ
11. 骨折ショートコント
12. スタバ

 ダイヤモンドのベストネタライブ。ネタ12本とダイヤモンドno寄席メンツ(+ちゃんぴおんず)からのビデオメッセージが見られる贅沢な時間だった。見れたらうれしいなと思っていた「竹ブラジル」が見れてハッピー。「ドライブ」がかなり好きでした。

 

バンズ・ヴィジット

 

ワラムゲ!

@ヨシモト∞ホール

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誕生日にちょうどダイヤモンドが出るということで初ワラムゲ。雑誌の発売日のネタだった。野澤さんが疲れるやつ。つかみというか漫才に入るまでの遊びの部分が長いなと思うんだけどこの日は謎に青春アミーゴの歌詞を読み上げていた。地味にシシガシラも好きなんですが、脇田さんがヒロインみたいなネタだった。ネタが見たいタイプなので平日夜の1時間でさくっと6本とか見れるのはお得かも。

 

【番外編】衆議院予算委員会傍聴

@衆議院

 日記とか書く用に別ブログを立ち上げてそこに書いてます。今後もこっちのブログを続けられるのかは謎。

 

 

 振り返ってみると比較的少なめだった。配信もほとんど見てない。その分(?)北海道に旅行に行ったりはしてました。

 

ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』

@日生劇場

 

STORY

エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊が、イスラエルの空港に到着した。彼らはペタ・ティクヴァのアラブ文化センターで演奏するようにと招かれたのだった。しかし手違いからか、いくら待っても迎えが来ない。誇り高い楽隊長のトゥフィーク(風間杜夫)は自力で目的地に行こうとするが、若い楽隊員のカーレド(新納慎也)が聞き間違えたのか案内係が聞き間違えたのか、彼らの乗ったバスは、目的地と一字違いのベト・ハティクヴァという辺境の街に到着してしまう。
一行は街の食堂を訪れるが、もうその日はバスがないという。演奏会は翌日の夕方。食堂の女主人ディナ(濱田めぐみ)は、どこよりも退屈なこの街にはホテルもないので、自分の家と常連客イツィク(矢崎広)の家、従業員パピ(永田崇人)と店に分散して泊まるよう勧める。
トゥフィークとカーレドはディナの家に案内される。部屋でくつろいだ後、トゥフィークはディナの誘いで街をみて廻ることにする。レストランに入った二人は、音楽について語り合い、少しずつ打ち解けるが、ディナと関係を持つサミー(渡辺大輔)と彼の妻(友部柚里)が現れると、ぎこちない空気になる。
トゥフィークの筆頭部下のシモン(中平良夫)とカマール(太田惠資)は、イツィクの家に招かれる。義父のアヴラム(岸祐二)は共に食卓を囲んでもてなすが、イツィクの妻イリス(エリアンナ)は、誕生日に見知らぬ人たちを連れてきた夫に不満が募る。おとなしい楽隊員を前に話は弾まないが、話題が音楽のことに向くと、ようやく場がなごんで来る。
カーレドは外に出ると、店の前で待ち合わせをしているパピに出くわす。パピは、友人ツェルゲル(青柳塁斗)とその彼女アナ(髙田実那)に紹介されて、ジュリア(山﨑薫)と四人でデートをするのだ。カーレドは嫌がるパピに頼み込んで、一緒に街に連れ出してもらう。警備員(辰巳智秋)にすごまれながらも、スケート場で遊びはじめる五人だが、女性に慣れていないパピは、ジュリアを泣かせてしまう。カーレドはパピの指南役となり、手取り足取り彼女を慰めさせる。
公衆電話の前では、彼女からの連絡をひたすら待ち続ける電話男(こがけん)が立っている。店の外では、楽隊員たち(梅津和時、星衛、常味裕司、立岩潤三)が、思い思いに音楽を奏でている。言葉も文化も異なる隣国の人間達が交わる一夜が、更けていく。
迷子になった警察音楽隊は、果たして演奏会に間に合うのだろうか?

 

感想

 舞台美術とか照明とかはめちゃくちゃよかった。盆が回ってればなんでも好きな人みたいになっちゃってるけど、盆は回らないより回るほうがいい。めぐさんの歌は言わずもがなで、新納さんのあの着こなしっぷりもなかなか真似できないと思う。観劇前に、日生劇場のキャパであえてあのささやかな物語を上演することについて触れた新納さんのインタビュー(どの記事だったか失念)を読んでいて、大味でド派手なものよりもささやかで細やかな方が好みなので期待していたのだけど、いまいちハマりきれなかった。

 女性の描かれ方をいまいち素直に受け止めきれなかったなと思う。トゥフィークがディナを諌めるところは理由を説明されてもやっぱり納得がいかない。なぜディナがサミーを許さないといけないのだろう? おそらくワンマンで子育てをしているのであろうイリスの神経の張り詰め方、緊張の糸がぷつっと切れたような泣き出し方も見ていてひたすらつらくて、夫であるイツィックに対していろいろ思うところがあるけど、(すべては説明されないけれど)イツィックも背景にいろいろあるのかな……と思ってしまった不思議。矢崎広という役者のチャームに惑わされている可能性が高い。ここの「すべては説明されない」というのはこの作品の良かったところで、だっていくら友情や何かしらの絆が芽生えたとしてもたった一夜の交流で自分の事情や心情をあけっぴろげにする人なんてほとんどいないから。すべてを打ち明けていなくても、ささやかな交流によって少しだけ何かが変わる──たとえその場では変わったように見えなくても、ほんの数ミリだけ軌道が変わることを描いているところは好みではある。

 ディナによるエジプト人への視線も少し居心地が悪くて、退屈な街で育ったディナがテレビやラジオから流れてくる異国の文化に惹かれるのもわかるんだけど、その視線はちょっとフェチ化的では……と気になった。

 それにしても席が埋まってなさすぎていたたまれなかった。本当に商業演劇って難しいなと思う。

 

舞台『ダブル』

 

@紀伊國屋ホール

 

STORY

天性の魅力で徐々に役者としての才能を開花させていく宝田多家良と、その才能に焦がれながらも彼を支える鴨島友仁。互いに「世界一の役者」を目指すライバルでありながらも、どうしようもなく惹かれあう二人の関係を繊細かつ大胆に描く。

 

感想

 原作から台詞を引いてきて雑にまとめると「私の『ダブル』を返せ」だし「誠実にやりましょうよ」って感じだった。別に『ダブル』はわたしのものではないので、あくまで「わたしにとっての理想の『ダブル』」でしかないのですが。わたしは原作漫画が好きで柿喰う客も好きで、友仁さんは玉置さんにやってほしい! 演出は中屋敷さんで! と舞台化が決定する前からずっと言っていたのだけど、蓋を開けてみたらなんか求めていたものと違うものが出てきたぞ、という話です。原作が未完結というタイミング、見せ方、座組、すべてがあんまり噛み合ってなくて、原作に感じていた魅力が削ぎ落とされてまるで別の話のようになってしまっていた。そもそも原作が未完結の状態でどう落とすかってものすごく難しい問題だとは思うんだけど、着地点がいまいちで、あれだと多家良と友仁の世界がやんわりと収束してしまったように思える。そんな話だったっけな。

 まずはなによりも脚本と演出にピンとこなかった。脚本家と演出家が別になっているとき、誰にどこまで責任を問うべきかわからなくなるのだけど、場面設定を「宝田多家良の引越し後のお高いマンションの部屋」ワンシチュエーションでいこうというのは誰が決めたんだろう。すべてはこの場面設定にこだわったせいな気がしている。ガチガチにセットが組まれていて場面転換はできないし、セットも小道具も全部そこに「ある」ので想像の余地もなく、その中で話を展開させるって縛りプレイにも程がある。ワンシチュエーションでやるお芝居はどちらかといえば好きなんだけど、今回に関しては効果的に働いているとは思えなかった。家の中でしか物語を展開させられないから、家の外で起こったことは登場人物の台詞で説明されてしまい、単調にならざるをえない。過程が省かれて結果だけを見せられているという印象だった。

 そこを演出で埋められてるかというとそれも出来てなくて、というかあそこまでガチガチにセットを組んでしまっていたら演劇における最大の武器(だとわたしが思っている)である想像による補完やそれによる跳躍ってなかなかできないわけで。だから謎のプロジェクションマッピングを出してくるしかなかったのだろうか。せめてセットを作り込まずにやってれば演出の自由度が上がったんじゃないかと思う。演出は率直に言うとものすごくダサい。柿喰う客が好きだからあんまり言いたくはないのだけど……とはいえダサい。スクリーンが半分降りてきてLINEの画面が出てくるのもプロジェクションマッピングみたいなセットへの投影も雪山の映像も、なんならライトの使い方までダサくない? と思った。小池修一郎版のロミジュリくらいダサい。ロミジュリのことは憎しみつつも愛しているのですが。憎しみで思い出したけど、舞台『ダブル』には憎しみの感情が足りなかったなと思います。

 漫画『ダブル』が好きな理由のひとつに、(他の漫画だとややサムくなりがちな)「天才」の表現に真実味がある、というところがあるのだけど、そこがすごく雑だったと思う。多家良の役者としてのすごさを友仁や九十九の台詞で説明しちゃうのってナンセンスすぎないか。役者の力量が足りないっていうならそこは見せ方で補うべきで、これは本当に脚本/演出側に責任があると思う。天才性の説明だけじゃなく、人格や役者としての声質の掘り下げが十分でなかったと思う。そのせいで、宝田多家良という人物が虚像のように見えてしまっていた。虚像が葛藤してる姿を見せられてもどうしたらいいかわからない。人間の姿が見たい。

 雅成の多家良はキャスティング発表時点でイメージがないな、と思っていたし、実際多家良かと言われたらやっぱり違うとは思う。多家良として芝居をする場面になると芝居の粗が目立つのも惜しかった。そしてあれだけ熱望していた玉置さんの友仁も自分の中の友仁像と違って、玉置さんがやると妙に魔性になってしまうんだなという。玉置さんはお芝居が最高なので、最高がゆえに「凡百な役者である友仁」というのに無理が出てこないか? という懸念はあったけど、実際に芝居をする友仁を見ていると、この人は才能あるだろ、売れるだろ、と思ってしまった。それってつまり友仁ではないんだよね。多家良とのパワーバランスが歪になっているのも気になったけど、たとえ玉置さんよりうまい人を持ってきて友仁-多家良間のパワーバランスがとれていたとしても友仁単体の設定としてはやっぱり破綻するので、そもそも難しかったんじゃ、という気がする。でも玉置さんのお芝居の声には本当に惚れ惚れしてしまう。

 つかこうへいへの解像度が高ければ、みたいな感想も見かけるけど、解像度が低い身*1としては漫画『ダブル』の舞台化なんだから舞台『ダブル』単品としてまず面白くしてほしい。本当になんでこのタイミングで舞台化したかよくわからなかったな……。まあ全部オートロックのマンションのせいということにして忘れましょう。

 結果、敬三さんの好感度が爆上がりして終わったなという感じです。敬三さんって最高。

*1:つかこうへいは『改竄・熱海殺人事件』と『銀ちゃんの恋』くらいしか観てないし好きでも嫌いでもない