夢と現実いったりきたり

柿喰う客「美少年」

12/16(日)17:00@Geki地下Liberty

 

柿喰う客

あらすじ

昭和最後の年。閑静な住宅街で起きた美少年誘拐事件は、
地域住民や教育関係者、マスコミも巻き込む大騒動となったが、
少年が無事に保護されたことで被疑者不明のまま解決した。
あれから30年。かつて美少年だった男が新たな誘拐事件を起こし
歴史の闇に葬り去られた悲しくもおぞましい事実が露見する。

演劇界の風雲児「柿喰う客」による平成最後の新作本公演は、
男優四人による濃厚かつ耽美な幻想怪奇譚。
美しい少年に狂う、醜い大人たちの物語。

 

感想

 「美しさ」は人を虜にする。ある者は狂信者となり、またある者は嫉妬する。発露の仕方は違えど、人は美しさを前に無視することができない。なぜならそれが美しいから。

 

 石膏像のように美しい少年ひばりは、周りの人々を狂わせていく。常に注目されるひばりは、当然ながら自らの美しさを自覚している。それは賞賛されるべきものだと思っている。自分を中心に世界は回ってきたし、それはこの先もずっとそうなのだと信じている。

 

 しかし、そうではない、ということを、遠足先の動物園で知ってしまう。珍獣や猛獣に夢中で自分に見向きもしない級友たち。皆が「美少年」に夢中になったのは、ただ退屈な学校や町の中で潤いが欲しかっただけ。自分は檻の中の猛獣や珍獣と同列の存在で、いくらでも代替品のあるものなのだ。狂信者である先生は普段通り自分を見つめていたが、彼が見ているのもまたひばり本人ではなく、ひばりの「美しさ」でしかない。誰も自分を見ていない。初めて味わう状況に震えていたひばりが出会ったのが芸術家の男だった。男は自らがゼウスとなり、ガニメデスのようにひばりの美しさを永遠のものにしてくれるという。作品が完成するまでの2週間、ひばりは男とともに過ごす。

 

 家に戻ったひばりを見て、狂信者だった先生は「偽物だ」と指摘する。芸術家の男が奪ったのは、ひばりの少年性だった。「略奪こそがアート」と言って、芸術家はひばりのランドセルを略奪した。放っていてもいつかは下ろさなければならなかったランドセルを奪われて、ひばりは「美少年」ではなくなったのだ。本当は、それでひばりの美しさがなくなってしまったわけではない。あくまで、彼が少年性を失ってしまっただけの話だ。「美少年」を見た民衆が「よくわからない」と言うように、それは絶対的な美の基準なんかじゃない。だけどひばりは自分の美しさが奪われてしまったのだと思った。そこからずっと、ひばりの時間は止まってしまった。狂ってしまった先生に過去の自分の美しさを讃えさせる39歳のひばり。痛々しくてかなしい。

 

 そんなひばりを救ったのが、決して綺麗とは言えない色の絵の具で描かれた、今の自分の姿だった。ひばりはもう美少年ではない。小学生の頃みたいに特別じゃないかもしれない。だけど、キャンバスに描かれたひばりはやはり美しかった。美しさの基準はひとつではなくて、どれか一つを失ってしまったからといって崩れ去るものでもない。決して逆らえない「時間」の流れを否定してしまっていたひばりは、そこできっとそれを受け入れることができた。

 

 『溺れるナイフ』のナツメは、レイプによって自身のキラキラが失われてしまった、自分は特別なんかじゃなく、偽物だったのだと思ってしまった(実際はそんなことないのに!)。少年少女時代の儚さとそのきらめきを神聖視する大人たちの視線を意識せざるを得なかった美少年、美少女は被害者だよなと思う。それに囚われたまま39歳になったひばりが愛おしくて仕方ない。中屋敷さんの描くキャラクターは、なんだかこうやって愛おしくなってしまう子が多い。

 

 しかし柿の役者はなぜあんなにドキッとする色気を醸し出しているんだろう。玉置さんが特に好きなんだけど、今回の「美少年」で完全に加藤さんの色気にあてられてしまった。もちろんひばりちゃんの時の加藤さんがすごくいいんだけど、女役を演じている加藤さんの色気が半端なくてどぎまぎしつつ目が離せなかった! あと単純に顔が好き。最初に「うちには美少年がいない」っていう話が出てきて、いや(少年ではないにせよ)加藤さんとか全然いけるでしょうと思ってたら案の定ひばりちゃん役だったというオチ……。加藤さん、顔も出で立ちも誰かにめちゃくちゃ似てる気がするけど誰かわからなくてモヤモヤしております。

 

 これは完全に余談だけど、開演前に玉置さんが客席にやってきてパンフレットを手売りしていて、そのさまがかわいらしかったです。そしてアフタートークでなぜかヤドンのぬいぐるみを握りしめている中屋敷さんの謎……。加藤さんは両手でマイクをぎゅっと握っていてこちらもかわいらしかったのでした。

 

 小さい劇場だけど、ステージ数は多いので、みんな観に行って、そしてひばりちゃんの愛しさに打ち震えてください。