夢と現実いったりきたり

雪組 ミュージカル・プレイ 『双曲線上のカルテ』 ~渡辺淳一作「無影燈」より~

@日本青年館ホール

 

STORY

一流の腕を持つ外科医でありながら、エリートコースを捨て個人病院で働くフェルナンドは、夜勤中でも酒を飲み、数々の女性と浮名を流す異端児であった。孤独な影を秘め、常識にとらわれない行動で病院内に多くの敵を作るフェルナンドだったが、彼なりのやり方で真摯に患者と向き合う姿に、看護師のモニカは次第に恋心を抱くようになっていく。だが、フェルナンドは、ある秘密を抱えていた……。フェルナンドとモニカの恋愛を軸に、真の医療とは、愛とは、そして命とは……という深遠なテーマを真正面から描き出すヒューマンドラマ。

 

感想

 まったくおもしろいと思えなかった……。観ていてこれだけ「無」になることもないなと思いながら観た。イタリアが舞台のはずなのにずうっと昭和時代の日本のかほりがする……と思っていたら、原作は日本が舞台なんだと知って納得。原作を読んでいないのでなんとも言えないけれど、人名や地名をただ置き換えただけなんじゃなかろうか、と疑ってしまうような、ローカライズがうまくいっていなくてちぐはぐになっている印象を受けた。日本が舞台のままでやっていたら、多少は話が入ってきた気がする。

 

 よかったところを探す方が難しい。湖に沈んだあたりの図がきれいだったのと、縣ランベルトがハンサムなのと、かすみちゃんが大好きということしか……。全体的に芝居のトーンをどうしたいのか、というところがよくわからなかったし、作品中で「ただしい」「すばらしい」とされる価値観はわたしは首肯しかねた。ギャグパートとして提示されるところは全部滑っていて不快なだけだったし。樫畑先生の作品をちゃんと観たことがないけれど、石田先生から好きにやってよろしい、と言われてこれだとしたら樫畑先生とも合いそうにないなあと思った。

 

 まず、ストーリー面。ヒロインのモニカに実体がない、ということが脚本上の一番の不満。女が「癒し」か「救い」として存在している世界における理想の結晶としてモニカが描かれている、ということにげんなりしてしまう。フェルナンドは死にゆくチェーザレと自分を重ねて優しく接してあげてほしいと言ったんだろうけど、モニカがチェーザレを抱きしめるのとか本当に嫌だったな。チェーザレの行動は性欲由来ではなく死への恐怖から人のやさしさを求めていた……ということだと理解はしてるけど、看護師にそれを求めることを肯定的に描かないでほしい。モニカに子供ができていることにもすごくゾッとしたのだけど、理想の結晶であるモニカに、さらに母親という属性も乗っける……というのが原因かも。

 アニータのエピソードも、「養育費は払わせるべきだろうが」という気持ちでいっぱいになる。養育費を受け取ることは欲深くもないし悪いことでもありません、ってずっと言いたかった。ふたりの過去の恋を嘘にしないためっていうならなおさら養育費を受け取るべきなんだよアントニーオ。

 ストーリーもだけど、台詞の不恰好さも気になる。急に説明口調になる感じとか、このキャラクターってそんな風にしゃべるっけ?って感じとかは『夢介千両みやげ』でも思ったから、石田脚本のクセなのかもしれない。急に神の視点みたいなモニカのナレーションが入ったりするのも好みではない。追想だとしても、モニカはそれを知らないのでは……と思うナレーションあった気がする。演劇って小説ほどは人称が固定されていなくて(語り手が存在する場合もあるけど)、どこに視点を置くかを観客が決められる自由さがあると思う。そこにあえて一人称っぽいナレーションを入れるのであれば、もっとこう……。不満が止まらなくなりそうなのでここまでにする。

 

 演出も全然好みじゃなかった。言葉を選ばずに言うと、すごくダサいなと思った。モニカにピンスポが当たってピーン……!というSEがつくところの演出なんかは、本当にダサすぎてひっくり返りそうになった。わざわざつけてるんだからつけたなりの意図はあるんだろうけど、考えることを脳が拒否してしまう。曲も昭和歌謡って感じだし、そこに合わせていくとこうなるのはしょうがないんだろうか。スターに歌わせるためにだけ入ってるような必然性のないナンバーの数々はなんだったのか……。

 

 「死」やそれに類するものの表現って、本当にトートみたいな扮装でしか表せないんだろうか? ということも考えさせられた。他の作品でもときどき見かけるし、ファンサービスとして採用しているのかもしれないけれど、本当にそれでいいんですかね。表現の追求を諦めないでほしいのだけど……でも、これはもうわたしが宝塚鑑賞に向いてないというだけなのかも、と思いはじめた。

 

 個人的に最悪のコンディションで観るはめになったこともあって寛容になれなかった。残念。