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なぜ木村伝兵衛を愛しく思ってしまうんだろう:改竄『熱海殺人事件』ザ・ロンゲストスプリング

3/19(木)ソワレ@紀伊國屋ホール

熱海殺人事件」の決定版として有名な「ザ・ロンゲストスプリング」で、木村伝兵衛部長刑事を演じるのは、つか作品では、2016年に「新・幕末純情伝」で勝海舟を好演するなど、実力派として数々の舞台に出演し、近年ではドラマ・映画での目覚ましい活躍も記憶に新しい、期待の俳優、荒井敦史。捨て身の潜入捜査を行う水野朋子婦人警官には、2014年『仮面ライダードライブ』の敵幹部役メディック役でテレビドラマ初出演を果たし、魅力的な女優として活躍中の馬場ふみか。容疑者大山金太郎は、舞台『弱虫ペダル』や舞台『刀剣乱舞』などの話題の舞台で活躍目覚ましい玉城裕規が務める。富山から来た田舎の刑事熊田留吉には、ミュージカル『刀剣乱舞』で人気を博し、テレビドラマで活躍を続ける佐伯大地が挑む。

 

感想

 観たことないんです、『熱海殺人事件』どころかつか作品自体。だからどこが「改竄」されているかもわからないんです。ただ、中屋敷さんはつかこうへいが好きなんだな、ということはよくわかりました。

 

 全体的にコンプラとかポリコレとかは機能していない(特に主人公・木村伝兵衛の言い草がひどい)わりにはそこまで引っかかりを感じずに観られたかなと思う。描かれてる時代背景が違うから……というのはあるかもしれないけれど、同じパターンでも引っかかってしまって素直に楽しめないこともあるからなんでだろう?と不思議だったのですが、「木村伝兵衛が愛しくてたまらないからでは」という結論に達しました。

 

 木村伝兵衛はそれはもう鼻持ちならない物言いをする男ですよ。しかもしょうもない男ですよ。なのになぜ彼にこんなに惹かれてしまうのかって、トイレをきちんと掃除してしまうような男で、そしてさびしい男だから。水野が語る安宿でのエピソードが本当にいい。トイレ掃除をする姿を見て「この人と一緒にいたい」と思うのめちゃくちゃわかるよね……なんだこいつ……恥ずかしい……むり……って思っててもそんな姿見たらあーもう仕方ないなってなりませんか。なります。

 

 みんなが去ったあともひとり捜査室に残された伝兵衛は、(まるで自ら捜査室に残ったのだとでもいうように)不敵に煙草を燻らせるわけだけれど、水野や熊田にそばにいて欲しい気持ちは確実にあったと思うのです。それを結局口にせずむしろ背中を押すというのが、彼の(自分と"ここ"にいるよりも彼らのためになるという)優しさ由来なのか、はたまた(それを口に出すことが"木村伝兵衛"に相応しくないという)弱さ由来なのか。ひとりで煙草の煙を吐く姿を見ながらも、冒頭に語られた「この若さがいつか自らを追い込む」という昏い暗示を反芻していました。

 

 もはや木村伝兵衛という男の心に触れられただけで価値がある〜完〜と言い切ってもいいくらい伝兵衛にメロメロになっていることが彼の思想や発言をある程度受け流せた一因だとは思うけれど、加えて、彼の思想や発言に対しては基本作中で突っ込みが入ってくるというのも大きいと思います。熊田や大山からは終始「なんだこいつやばいな」という目で見られてるし。わたしはむしろ、そんな熊田や大山に引っかかってしまった……特に大山については(基本はかわいいと思うんですよ、なんてったって玉ちゃんだし)アイちゃんに投げかける言葉や態度が、端的に言って無理でした。

 

 「1000円を差しだす」というのが一番アウトな行為ではあるけれど、そもそも彼が拠り所にしている地縁とか同郷とかそういうコミュニティ的なものにわたしが必要以上にアレルギーがあるというか、別にトラウマがあるわけでもなんでもないけど帰属意識というものをとにかく持たないようにして生きている地方出身者としては、大山の言動すべてが「見ててしんどいもの」だなと。村相撲で優勝した話とかさ、お前いつの話してんだよ、それしかないのかよって思ってしまうんですよどうしても。実際彼にとってそこがピークでキラキラしてた時期で、そこに縋ってないとしんどかったんだろうというのはわかるけど、生きてるのはいまなんだから過去ばっかり見ててもしょうがないじゃん。現在進行形でどん詰まりでも、ここから絶対上にいってやるって意地を見せられるアイちゃんは馬鹿みたいかもしれないけど好きになれるんですよ。

 

 とはいえアイちゃんはわたしよりももう少し優しい気持ちを持っている人だと思ってて。彼女は彼女で疲れ切っていて、だけどきっかけがないと帰ることもできなくて、大山をそのきっかけに、あるいは利用しようお思っていたのかもしれない。そういう強かさが好き。だからこそ、どれだけ彼が変な格好をして恥ずかしい行動をとっていても最後まで諦めずに話をしていたんじゃないか。となるとますます大山のあの行動はあまりにも最悪としか言えなくなってくる。そのへんは伝兵衛がきっちり正論パンチをかましてくれるから浮かばれるんだけど……木村伝兵衛のそういうところが信頼できると思いませんか???

 

 結局行きつくところそこかいって感じですけど。これが元のつかこうへいの戯曲の力なのか、中屋敷さんによる改竄と演出の力なのかわからないのが歯痒い。ある登場人物のことをとんでもなく愛おしくなるのが(あくまでわたしが観た)柿の芝居だし、やっぱ中屋敷さんについていくしかないのかも。そしてもちろん役者本人の魅力と実力あってこそだと思うから、

 

スペシャルサンクス:荒井敦史!!!