夢と現実いったりきたり

舞台「Take me out 2018」感想

3月30日@青山DDDクロスシアター

 

www.takemeout-stage.com

 

男たちの魂と身体が燃え滾る、「ロッカールーム」。彼らにとってそこは、すべてをさらけ出せる楽園だった。ひとりのスター選手による、あの告白までは-。

黒人の母と白人の父を持つメジャーリーグのスター選手、ダレン・レミングは、敵チームにいる親友デイビー・バトルの言葉に感化され、ある日突然「ゲイ」であることを告白。それは、150 年に及ぶメジャーリーグの歴史を塗り替えるスキャンダルであった。しかしダレンが所属するエンパイアーズ内には軋轢が生じ、次第にチームは負けが込んでいく……。

そんなときに現れたのが、天才的だがどこか影のある投手、シェーン・マンギット。圧倒的な強さを誇る彼の魔球は、暗雲立ち込めるエンパイアーズに希望の光をもたらしたのだが-。

 

 

 Take me outの物語は、さまざまな視点から読むことができるのだと思う。肌の色、言語、宗教、性的指向、貧富、ぱっと挙げるだけでもこんなにたくさんの「問題」を孕んだ物語だから。だけど、私はこの物語を、あくまで「ぼくの神さま」の話として受け止めている。「神さま」というのは宗教的な意味合いではなくて(確かにTake me outは多分に宗教的というかキリスト教的な思想が重要な要素ではあるのだけど)、自分にとっての美しいもの、素敵なもの、信じられるもの、それらのことを指す。Take me outに登場するキャラクターたちにはそれぞれに「神さま」がある。デイビーにとってそれは文字通り神のことで、メイソンにとってそれはダレンだった。シェーンにとっては? おそらくそれは「投げること」だったのだけれど、彼はそれを選択したというよりも「それしか縋るものがなかった」のだろう、と思う。

 

 キッピーという男は、外国人選手の言葉を「喋れないけれども、何を言っているかなんとなくはわかる」と言って通訳のような役割を担っている。その訳というのは、合っていたり間違っていたりする。彼はシェーンの言葉をも「通訳」しようとして、そして失敗してしまった。そういう、物語全体を通して常に「理解者」たろうとすること、それがキッピーの美点でもあり、しかし同時に傲慢さでもある。と、いうのは、こうして他人を理解したようなふりをしている私に対する自戒でもある。

 

 

 さて、「Take me out」=連れてって、連れ出して、というタイトルについて考えたい。感想を書くにあたって、随分遠くなってしまった記憶を引っ張り出していたのだけれど、冒頭の舞台セットを思い起こすとき、どうしても牢獄のかたちをしてしまうのだ。観劇からもう2週間以上経っていて、印象でしかないから実際確認したら全然そんなことないのかもしれないけれど。

 

 メイソンが「野球は民主主義のメタファーだ」と熱く語っていた(違うのは「敗者」がきちんと描かれることだとも)ことも踏まえて、アメリカ社会の縮図みたいなエンパイアーズのロッカールームを、キッピーは「楽園」と呼んでいた。「俺たちは楽園を失った」と言っていた。だけど私にはあれを楽園だなんて思えなかったのだと思う。はっきりと言葉にはされていないけれど、明らかに何かが制限されているような、透明な檻のような、そんなものに見えていた。その檻があるのは、ロッカールームという場所にではない。ひとりひとりの、あるいは複数人が集まったときの、心の内にある。そこから「連れ出してほしい」と誰もが無意識に叫んでいて、だけどそれに気が付かなくて、檻を取っ払ったり抜け出したりする人がいると敵視してしまうのだと思う。

 

 ダレンはデイビーの一言をきっかけに檻から抜けようとしたけれど、思っていたよりそれが困難で、もがいていた。メイソンはダレンの存在をきっかけに檻を抜け出して、結果的にメイソンがダレンの「Take me out」を完成させたんじゃないかな。二人のハグは私がここ最近で目にしたものの中で最も美しいものだった。真っ暗な中、二人だけが照らされた世界を目の当たりにして、私は泣いた。

 

 役者の話もしておきたい! シャワーを浴びる章平さんの美しさは、彼が自身を「神」と豪語していても納得がいくほどの硬度があって素晴らしかった。玉置さんが素敵な役者さんだというのは改めて言うようなことではないかもしれないけど主張したいので言っておきます。メイちゃんはとーーーってもかわいい。陳内さんは造形が好みかつ美しすぎてガン見した。

 

 あとこれは本当に余談ですが、トイレに並んでいたら演出の藤田さんが通って行かれてめちゃくちゃ興奮しました。トイレの横が楽屋っぽくて、終演後にワッと盛り上がっている声も聞こえてきて「良いな~~」と思いました。2017年度の締めに相応しい素敵な演目でした!!!時間あれば絶対観に行ったほうがいいと思います。