夢と現実いったりきたり

イキウメ『散歩する侵略者』を観た

2017年11月26日(日)13:00@ABCホール

 

www.ikiume.jp

 

海に近い町に住む、真治と鳴海の夫婦。真治は数日間の行方不明の後、まるで別の人格になって帰ってきた。素直で穏やか、でもどこかちぐはぐで話が通じない。不仲だった夫の変化に戸惑う鳴海を置いて、真治は毎日散歩に出かける。町では一家慘殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発。取材に訪れたジャーナリストの桜井は、“侵略者”の影を見る_。

 

 

 イキウメ『散歩する侵略者』を見てきた。きっかけは同名映画『散歩する侵略者』を見たこと。ひたすら天野くんと、天野くんと桜井さんの関係性がツボで、高杉真宙くんの造型が天才!みたいな話ばっかりしていたところ、イキウメの『太陽』(こちらも映画がつくられてますね)のDVDを見せていただきました。ありがとうございます。これがめちゃくちゃ面白かった! 人間関係を描くのがなんて上手いんだ……と感動して、前川さんのことを「人間関係の鬼」呼ばわりしています。それから劇団員の浜田さんが素敵なんですよね。で、一度公演を生で見たいな~と思っていたところ、ちょうど予定が合って、当日券で大阪楽を駆け込み観劇できた。場所はABCホール。トイレが綺麗で個室も広々としているので好きになった。

 

 まず入って驚いたのがセット。不思議な舞台になっていて、センターに急斜面があるんです。どう使うんだろう?と思った。あとはステージがめちゃくちゃ低い。客席とステージの差がほぼないのが新鮮で、いわゆる「ステージ」感がなかった。ステージ周りには流木や石が配されていて、波の音が流れてたのでとりあえず海辺なんだろうな、と思いつつ、しかしポロンとしたBGMも心地よくて始まるまでにちょっと眠気が誘発された。

 

 ストーリーは映画で見て知ってるしな、と思って見に行ったけど、ストーリーも結構違うし、キャラクター造型も違うし、何といってもお芝居の感触が全く違ってました。温度も質感も味も全部違う感じ。二つを比べてどっちが良い悪いの話ではなく、描きたいものの違いなのかな。映画では私が天野・桜井の関係性にグっときたように、侵略する側・される側の交流とか、侵略する側のキャラクターを掘り下げていたのに対して、舞台はあくまでこれは「人間」の話なんだなと思った。人間関係の描き方が、見ててよりキツい感じに仕上がっていた。映画だと鳴海の家に転がり込んできた鳴海の妹から概念を奪って、そのあと妹はもう作中出てこないのだけど、舞台だと鳴海の実家に住んでいる鳴海の姉から概念を奪う。「姉から概念を奪った」こと、そして「それによって傷ついた人(姉の夫)がいる」ということがフェードアウトせずにずっとちらついている。それは(概念を奪う前にはわからなかったとはいえ)真治の犯した罪。丸尾のように、概念を奪われたことで「解放された」という人もいるけれど、彼はたくさんの人を狂わせている。その事実を痛いほど知りながら、それでも「真ちゃん」を失うことを恐れて知らんふりをしようとしていた鳴海が私は好きになれないなと思う。最後に「愛」を奪わせて、自分だけさみしさから逃げようとしたところも。映画でも好きじゃなかったけど、改めて無理だった。

 

 

 それでもこのお芝居を好きだと思うのは他の人たちが魅力的というのがあると思う。たとえば桜井。彼はそもそも映画と舞台で立場が違う。映画の桜井は人間側とのつながりが(とりあえず目に見えるところとしては)全然なく、天野くんと交流する中で最終的に人類を見限る。でも舞台の桜井には浩紀との友人関係が提示されている。友人が被害に遭うという時に、ジャーナリストとしての好奇心を優先させることはできなかった。天野くんとの交流があまり描かれていないというのもあるけれど。安井さんの眉尻を下げた表情がとても好きです。そう、桜井と天野くんの交流が本当に薄くて、だから首を絞められた天野くんの「友達だと思ったのに!」という叫びが少し唐突に思えた。自分の存在や話を面白がって聞いてくれたのが天野くんにとっては楽しかったのかもしれない。天野くんの描かれ方も映画が醒めた感じの小悪魔だったとすると、舞台ではもっと感情がむき出しの、桜井の言う通り悪魔という表現の方がぴったりはまっていた。彼の最後の台詞が前述の「友達だと思ってたのに!」というのは切ない。走り去ったあと、天野くんとあきらはどうなったのだろう。余談だけど天野くんが吹奏楽部なのは萌えポイントです。天野くん役の大窪さんが十代にしか見えなくて実際の年齢を忘れてしまう。すごい。

 

 車田先生も好き。先生は概念を二つも奪われてて本来なら笑いごとじゃないんだけど、厳しい状況が続いてる中チャーミングなキャラクターにすごくほっとした。メモを見ながらじゃないとうまく話せないって言ってたけど、一日でこれだけ回復するってやっぱり医者は頭がいいからすごい(そういう話ではない気がする)。盛さんのスーツ姿がすごく好き。私もサブカル女の端くれなので浜田さんが好きだけど(偏見だけど浜田さんはサブカル女からめちゃくちゃ好かれそう)、実は盛さんが好きだということにも気づいてしまった。かわいい……!

 

 あとは長谷部。長谷部は、急に人が変わったように反戦運動を始める丸尾に戸惑って、前みたいに戻ってくれと説得する。概念を失った丸尾は長谷部の言っていることがわからない。お前も真ちゃんに解放してもらえ、そしてこっち側に来い、と笑顔で言う。長谷部は「概念を失わないまま、丸尾についていく」という選択をする。この選択が好き。長谷部が丸尾のことをすごく好いていることもわかるし、なにより「概念を失う」という簡単な方法に頼らずに、ちゃんと自分の頭で考えて下した決断なんだなというのがわかる。私だったら「なんか変な宗教に引っかかったのかな」って思って疎遠になったりしてしまう気がする。長谷部役の栩原さんを検索したら刀ミュに出てらしいっていうのにびっくりして、すごく大きい印象を受けたのに168cmっていうのにさらにびっくした。基本丸尾としか並んでない(丸尾役の森下さんが157cmらしい)から……。

 

 

 とりあえず勢いにまかせて思ったことをガッと書いてみたわけだけど、書き洩らしといえば、真治の着替えシーンが下手だったからめちゃくちゃ見えてドキドキしてしまったのと、浩紀役の板垣さんの声がすごい良いってことです。とにかくイキウメは今後も見ていきたいなと思いました。春に次回公演があるようで、それも面白そうだから見に行こう。