夢と現実いったりきたり

こまつ座「きらめく星座」

@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

 

 

STORY

時代が押し付ける重い空気
そんな流れに負けず
懸命に生きた庶民たちの物語

刻一刻と暗い時代へと突入していく中、
求められるのは"軍國歌謡"か"敵性音楽"か。
太平洋戦争前年からの一年間を描いた
井上音楽劇の代表作。

 

 

感想

 井上ひさしの作品は初めて観たと思う。音楽によって心を癒して・支えて人間らしく生きる家族(ここでいう「家族」=同じ屋根の下でともに生きる人々)の話。戦時下の話なのに、一家のキャラクターのおかげで軽快に楽しげに進んでいく。彼らはただ考えなしに明るく過ごしているわけではないのだけど、物語が「家の中」で展開していくから明るく楽しく見える。実際は非国民として石を投げられるような家なんだけど。

 そんな「家」に入ってきた根っからの軍人・源次郎をコメディチックに描くことで批判を加えつつ、彼が教え込まれてきた「道義」が欺瞞であることもつまびらかにしていく。明らかに異物である源次郎に対して排除するわけでも態度を硬化させるわけでもない一家の態度がすごい。対立じゃなくて、いつのまにか「家」の一員になっていく過程が描かれるのには、悪いのは源次郎自身ではないという意図があるのかな……と思った。源次郎の身体にへばりついていた/もはや身体の一部だった「道義」を引っぺがす作業に彼が失くした右手の幻肢痛を重ねて、どれだけ苦しみを伴う作業なのかをわかりやすく伝えていたのがよかった。

 日本人として戦時下に生きることに絶望させて終わらせるのではなく、星を見上げることによって「生」自体は肯定するように導くやさしさと、だけどそういうことを全部薙ぎ倒していくのが戦争である、というのを誤魔化さないことで反戦の意志をしっかり見せるのがあのラストなのだと思った。

 直接に戦線に出なくとも、女性には女性の苦しみがある、という言及があったことに「おっ」となった。これが2023年の戯曲だったらもう一歩踏み込んでほしいなと思ったかもしれないけど。軍国乙女が傷痍軍人に嫁ぐくだりのグロテスクさはバカバカしさとして描かれてる……と受け取っていいのかな。ここは言い切るほどの自信がない。

 すごく久しぶりに村井さんを見て、やっぱりいい役者だなと思った。出ずっぱりではないんだけど、出てくるたびに飛んだり跳ねたりタンゴを踊ったりで楽しく場を引っ掻き回していった末に真剣な心情の吐露が来るずるい役どころ。潜伏先で合唱団作っちゃう正一のことを愛さずにいられないよな。衣装替えもたくさんあって目にも楽しいし、ちゃんと乗りこなせる村井さんはさすが。

 

▲星の話は『嘲笑』を思い浮かべながら聞いた。

 

▲劇中で使われてたものは見当たらなかったので高田渡バージョンで……。歌詞も違う。