夢と現実いったりきたり

雪組バウホール公演『Sweet Little Rock'n'Roll』

 

f:id:tsukko10:20220123194033j:image

シェイクスピアの「から騒ぎ」を下敷きに、舞台を1950年代のアメリカに移してハイスクールに通う若者たちの恋模様を描いた『スウィート・リトル・ロックンロール』。
1985年に月組で上演されたフレッシュでエネルギッシュなミュージカル作品を、2022年版にリメイクしてお届け致します。
ロックンロールの軽快なリズムに乗せて繰り広げられる青春ミュージカルと、HOT&COOLなナンバーで構成されたフィナーレが、雪組バウホール公演を盛り上げます。

 

超〜〜〜〜〜〜楽しかった。いや本当に。中村暁先生のショーがあんまり肌に合わないのと、下敷きになってる『から騒ぎ』がいまいち好きじゃなかったのと、アメリカンハイスクールものがあんまりツボじゃない……という要素が積み重なっていて正直期待値はあんまり高くなかったのだけど、本当に楽しい公演だった。それが嬉しくて嬉しくて、泣くような話じゃないのにフィナーレで泣きそうになるの巻。SLRRをひとことで表すと、「シェイクスピアをベースに80〜90年代少女漫画を新喜劇的手法で演出して漫才のエッセンスを加え、KPOPを違法増築した作品」になる。泣くような作品ではないな……。

 

一幕はロバートとメアリー、ビリーとシンディのカップルがくっつくまでの騒動が、そして二幕ではロッキーとミリーの不和を解決するまでの騒動が描かれる。いろいろなカップルに焦点を当てていくことで、キャラクターを持て余すことなくきちんと個性を描けていて、雪組って面白い子たちがいっぱいいるんだなあと再確認できた。それでいて主演カップルの存在感が薄くなることもない。二幕の糸を引いているのがビリーとシンディだから……というのもあるけど、やっぱり縣千くん・夢白あやちゃんのふたりのスターとしての存在感が強いからこそ。あがちはビリーみたいな思春期の男の子を演じるとかっちりハマっててよかった。夢白あやちゃんはもう完璧だし言うことないよね……。おのおのが独立したスターとして素敵だけど、ふたりが掛け合わさったときに魅力が何倍にもなる感じがまたパワーがあっていい。

冒頭でグッドマン校長がビリーにかけた「何かに出会うことで自分が変わる」という言葉にこの作品のテーマは凝縮されていて(作中ではそれがロマンスに発展するボーイミーツガールを意味する)、意地だの見栄だのプライドだのを脱ぎ捨てて、素直に自分の心と相手に向き合ってみよう、そうすればきっともっと素敵なものになれるから、という前向きで明るいメッセージが詰まってる。若手メンバーで、そして今の時代に上演するのにぴったりな作品だと思った。あんまり眩しくて涙が出る……。すぐ泣くやん。コメディリリーフ的役回りだと思っていたロッキーが二幕で中心に据えられるのにも泣いたね。ミリーの狂言のクライマックス、周囲がてんやわんやと動き回っている中でスポットライトを浴びて動かないロッキーとミリーを見ていると(あくまで主役はビリーとシンディだけれど)ふたりにとってはお互いが世界の中心だというのがよくよく伝わってくる。真ん中でカップル芝居をしてることもそうだし、黒燕尾のボタンがキラキラ光っていたことも嬉しかった。そういう意味でも楽しい公演だった。

 

作品全体の話に戻る。舞台やミュージカルやタカラヅカの「お決まり」を違う文脈で使うことでユーモアに仕立てる、ということをやっていて、その構造が面白かった。昔の作品をリライトしている/下敷きがシェイクスピア作品、というのもあり、価値観に引っかかるところがあるかな? と構えていたけれど、案外すんなり観られたのはそういう作品の構造のおかげだと思う。「男らしさ」で意中の女の子にアピール!という展開もあるものの、同時に「男らしさ」をギャグとして消化しているから気になりづらい。特に、ビリーやロッキーの「男らしさ」は過剰さをもって演出されて、笑いどころとして提供されていて、そういうところが面白い。

ただし、他の場面もあわせて考えると、「男らしさ」というところを意図してギャグ化しているというよりは、「過剰さ」という宝塚の特性を利用して、宝塚でしかできないギャグをやっている……という認識の方が近そう。シンディの心象風景として登場する《幻想のビリー》や、ビリーの投げキッスに笑いが起こる*1って不思議な話で、主演の男役が真っ白な王子様衣装で登場するのも投げキッスをするのも普段は「かっこいいもの」のはずなのに、それがギャグの文脈で使われているという。宝塚をメタ的に使うのは見たことあるけど、こういう使われ方はわたしは初めて見た。もしかしたら嫌な人もいるかもしれないけどわたしは好き。

 

この公演で雪組のあみちゃんが見納めかと思うとすごく寂しくなってしまうんだけど、そういう事情が本編中は吹き飛んでしまうくらいあみちゃんのお芝居が面白かった。あみちゃん自身がカフェブレで「コメディのお芝居は難しい」と話していたように、コメディ芝居ってすごく難しいものだと思うんだけど、お芝居のうまい人がやるコメディ芝居は死ぬほど面白いということを他ならぬあみちゃん自身が証明してた。勝手に厳選!SLRRで面白いパート:フクロウネタ、マットのガヤ、ロバートのすべて(特にシンディの物真似)フィナーレのソロのあみちゃんがあまりにも綺麗でまた組替えのことを思い出して、行くな……と思いつつ月組のあみちゃんも楽しみなんだよなあ。フィナーレのあみちゃんに月城さんの面影を感じてびっくりした。はおりんにはあゆみさんを感じるし、宝塚のそういうところがいろんな意味でゾクゾクする。

 

作品でちょいちょい惜しいな〜と思うところもあったけど、特に言いたいのはぐいぐいジョーがフェードアウトするところだよ!!!あのクセが強すぎるキャラクターをあんなふうにフェードアウトさせていいわけがないだろうが!!!なんなん!!! なんなんついでに言うと、フィナーレで本格的に2PMをカムバさせようとするのはかっこいいとかの前に笑ってしまうから勘弁してください。好きなタカラジェンヌが2022年に2PMとしてカムバックするなんてノストラダムスでも予想できないから。るいくんのパートはチャンソンのパートらしいです。なんなん。もう近頃は毎日ハートビート聴いてます。リスントゥマイハービー……

 

*1:前者は回によって起こらないこともある