夢と現実いったりきたり

花組 アウグストゥス-尊厳ある者-/Cool Beast!!

STORY

ローマ史上初の皇帝となり、「尊厳者」を意味する“アウグストゥス”の称号を贈られたオクタヴィアヌス帝。彼はいかにして、志半ばで死したカエサルの後継者となったのか?
カエサルの腹心・アントニウスや、ブルートゥスらとの対立の果てに、「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」の境地に至った若き英雄の姿を、フィクションと史実とを織り交ぜて描く。
紀元前46年。政敵ポンペイウスを討ち、ローマに帰還したカエサル凱旋式当夜。ユリウス家の邸では、カエサルと敵対していた貴族たちとの和解の宴が催される。そこに現れた招かれざる客…それは、今は亡きポンペイウスの娘・ポンペイア。彼女は無謀にもカエサルに斬りかかり、父の仇を討とうとするが、ユリウス家の末裔であるカエサルの大甥・オクタヴィウスがそれを阻止する。オクタヴィウスは、ポンペイアを赦す事こそ真の和解の印だとカエサルに訴え、彼女を助けようとするのだが…

 

感想

作品の出来不出来と好き嫌い、テーマへの理解というのは別軸で成り立つ。アウグストゥスは作品として出来がいいとは思わないけれど(欠点も目につくので)「理解」できたし、好きな作品だった。田渕先生って、たぶん伝えたいことや先生の中での哲学みたいなものがしっかりある人で、それが脚本や演出よりかなり先走ってしまってるんじゃないかな……。で、荒削りな部分を、役者の力量(後述するけど本当に芝居がよかった)や、観客のテーマへの「共鳴」によって補っている、という印象。わたしは田渕先生の描きたいテーマにかなり共鳴しているから、すんなり理解につながったのだと思う。共鳴できなかった人には難しく感じるのかな。でも歴史ものにしてはストーリーは別に難しくないよね。田渕先生と5Gでつながっちゃってる*1からわかんないや……。

 

わたしは東宝の〈ロミオとジュリエット〉で延々とろくろを回していた経歴があり、それが本作を観るにあたっての手助けになっているんじゃないかと思うくらい、〈ロミオとジュリエット〉と共通項のある作品だと思っている。ロミジュリを理解した人間はアウグストゥスも理解できるはずなのだ……。特に、オクタヴィウスの「マッチョイズムの真逆にいる・出自(家柄)が恵まれた若者」というキャラクター造形はロミオと重なる。争いを嫌い、剣を抜くことをためらうオクタヴィウス。そんな彼の在り方・考え方は「それをしなくても済む」からこそ可能なのだけど、序盤は彼自身そのことに気がついていない。大叔父・カエサルの暗殺を契機に憎しみに呑まれかけたことで、同じく大切な人を殺されたポンペイアの憎しみをようやく理解する(このあたりもロミオっぽさがある)。だけど、オクタヴィウスのブルートゥスへの復讐が不発に終わり、「復讐を遂げて英雄になる」という望みは本当にオクタヴィウス自身が心から望んだことだったのか?という自己との対話がはじまる。自分はなぜ、なんのために、なにを為したいのか。憎しみや民衆の声に惑わされないように、必死に目を凝らして見えてきたのは、静かに祈りを捧げるポンペイアの姿だったのである……。みたいなことを受信している。人が亡くなっていくけれど決して悲劇ではなく、各人の祈りや意志へとつながり、開かれていく物語なのがよい。

 

ところで、オクタヴィウスと対照的にマッチョイズムの象徴として描かれるアントニウスの存在を考えたとき、オクタヴィウスを主役に据えるということ自体に未来志向を感じる。アントニウスのような「強い男性」像はこれまでいくらでも描かれてきていて(特に宝塚の男役だとよりそうなるのかも?)、なるほどたしかに多分に魅力を備えたキャラクターだと思う。だけど、そうじゃない男性にだって魅力はあるじゃないですか。革新的とまでは言わないけれど、オクタヴィウスという新しい男性主人公像を提示したかったのかな、という。まあオクタヴィウスの魅力についてはアグリッパに注釈つけさせてるし……。これはメタ的な読み方になってしまってあまり行儀はよくないと思うけれど、オクタヴィウスが柚香さんへの当てがきであることを考えると、田渕先生は柚香さんに宝塚の男役像の未来を見て/託していて、役者としてもかなり信頼を置いているのでは、と思った。門外漢なりに。

 

"Brainy is the new sexy*2"以来、メディアで多様な人間の魅力を描くのってすごく大事なことだと思っているので、そのあたりを組み込もうとする田渕先生の感覚を好ましく思う。〈ハリウッド・ゴシップ〉も雑にまとめればハリウッドという権威から「降りる」話だし、やっぱり田渕先生の描こうとしてるテーマは個人的にすごく馴染みやすい。だからこそ、もう少し頑張れるのでは?! と思ってしまうのだけど……。正直、メイン数名以外のキャラクターは持て余してしまっているように感じたし、役者の力量で補っているところもあるし。これだけ共鳴してしまっている自分でも、もしオクタヴィウスとポンペイアが柚香さんと華さんじゃなかったらどうだったかわからない……。こんなに芝居がうまくていいのか?と思うくらいふたりの間で交わされるお芝居がよすぎて、ずっと胸がつまりそうになりながら見ていました。このふたりがトップコンビとして芝居をしてるのなんて奇跡レベルじゃないですか。宝塚以外も含めて、ここまで密度の高い芝居を見れることってなかなかないんじゃないかな、と思ったのだけど、もしかしたらこれは宝塚だからこそ起こった化学反応なのかもしれない。なんにせよ、ふたりの芝居の目撃者になれたことを幸せに思います。

 

と、深夜にぐるぐる考えていたことを書き連ねたところで終わろうと思ったらCoolBeastに触れていないことに気がついたのでひとことだけ……すごい藤井先生って感じで、おおむね楽しかった。衣装が本当に素敵だった〜。

 

 

 

*1:ワクチンまだ打ててないけど

*2:BBCのドラマ〈SHERLOCK〉でアイリーン・アドラーがシャーロック・ホームズを評した台詞