夢と現実いったりきたり

ドラマ『화이트 크리스마스 /ホワイトクリスマス』

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STORY

上位 0.1%だけが入れる入試名門私立スシン高校。1年間で唯一の休憩時間、8日間の冬休みが始まる。
皆騒ぎながら学校を出るが発信者の分からない疑問の手紙が届き7名の学生たちが残る。一方、交通事故に遭った精神科医師キム・ヨハンはスシン高にたどり着き助けを求める。数十年ぶりの大雪で学校は外部から完全に遮断され生徒たちは手紙の主人公を探しに出るのだが…

 

CAST

  • キム・サンギョン:キム・ヨハン
  • ペク・ソンヒョン :パク・ムヨル
  • キム・ヨングァン:チョ・ヨンジェ
  • イ・スヒョク:ユンス
  • ソンジュン:チェ・チフン
  • キム・ウビン:カン・ミル
  • ホン・ジョンヒョン :イ・ジェギュ
  • クァク・ジョンウク:ヤン・ガンモ
  • イ・ソム:イ・ウンソン

 

感想

 前回のエントリでも少し触れたドラマ『ホワイトクリスマス』(全8話)を完走した。キャラクター萌え・俳優萌え視点*1でも存分に楽しめるうえに、題材的にも楽しんで見られる、よくできたドラマ。もとはもう少し長い作品の予定だったのを無理に8話におさめたということで、若干の駆け足感には目を瞑りたい。

 

主題

 連続殺人犯・ヨハンがスシン高校でおこなう“実験“、「〈怪物〉は、〈悪〉は生まれつきのものなのか、それとも後天的につくられるものなのか?」──これがそのまま主題になる。“実験”の結果は、最終話で高校生らが選んだ行動で示される。皆から〈天使〉と呼ばれていたユンスは〈悪〉の卵が孵ることを拒否して自死するが、残り7人はヨハンを殺す=彼らの〈悪〉の卵は孵ってしまった。つまり、〈悪〉はつくられるものである。でQ.E.D.だ。

 人間は環境によってつくられる、と信じているから、この結末に納得はする。しかし、彼らに対してかなりの愛情を持ってしまった身としては、やはりショックだったことは間違いない。*2

 彼らの〈悪〉の卵は彼らの置かれる環境下でもともと育っていたもので、彼らは(意識的かどうかは置いておくにしても)それを孵さないように踏みとどまっていたはずなのに、刺激を与えて孵るように仕向けた(しかも自分が赦されたいがために)ヨハンの罪は重い。悪いのはヨハン。高校生たちは悪くない。憤怒。

 

 『ホワイトクリスマス』を見て映画『ファイ』*3を思い出したのだけど、ログを遡っていたらそもそも『ファイ』を見てひとりで盛り上がっていたところに「絶対見てほしい」って言われたのがこの『ホワイトクリスマス』だった。わたしは悪だの罪だので揺れてる人間を見るのが本当に好きなんだと思う。

 

 

音楽

 挿入歌もとてもよい。音楽のセンス(曲そのものと挿入のタイミング)が好みの作品はいい作品*4なのだ。DVDを貸してくれたAOさんに共有してもらったプレイリスト(いたれりつくせりすぎる)を聴く感じ、韓ドラでよくある「ドラマのためにいろんなアーティストを集めて曲をつくりました」なOSTではなく、既存曲、しかも少し古い洋楽が多く採用されているらしい。これがまた違和感なくマッチする。

 残念ながら、個人的に一番印象的だった曲はサブスク配信されていない*5のだけれど、KBSの公式アカウントがYouTubeでドラマ全編を配信している*6ので、該当シーンを貼っておく。

 

 5:23〜流れているのが、흐른の「그렇습니까」という曲。DVDで字幕がついていた歌詞を書き出しておく。

目を合わせたいし手もつなぎたい

君の肩と唇に触れたい

話をしたいしいろんな事を聞きたい

散歩は好きか 映画を観るのは好きか

昨日どんな夢を見たのかも知りたい

一晩中踊って 一緒にビールを飲みながら話がしたいのに

 ウンソンを想うガンモの心情と重なってグッとくる。「ムヨルといるウンソンの姿が一番好きだったから自分の気持ちを伝えなかった」と語るドルオタの鑑みたいなガンモ。盗撮自体は気持ち悪い行為ではあるけど、ガンモがウンソンに対して抱いていた気持ちはとても美しいものだったと思う。なんなら劇中で一番美しい気持ちだった。他の子たちの感情はだいたい歪だから。

 

キャラクター

ムヨル

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▲日本でいえば高橋一生的なイメージ

 

 親子関係、障害、学生生活……と、要因はそれぞれにせよ、皆がどこか歪なものを抱えている中で、いちばん歪さを感じたのが主人公のムヨル。正確に言えば、自らの歪みを悟っていながらも、それを徹底的に真っ直ぐに矯正しようとしていたように見えた。その根っこには「母親を犠牲にして生き残った」という罪の意識があり、彼の生き方はいわゆる贖罪のようなものだったのだろう。「正しくあらねば」という強迫観念は彼の人格にあまりにも根を張ってしまっていたから、それが取り払われたら危ういのだ。

 ヨハンはそれをわかっていたからこそ、ムヨルの〈悪〉の露出にいちばん期待していたし、実際、あの悪夢のような結末はムヨル先導で引き起こされたものだ。「どんなことをしても生き残れ」という父親からの言葉がトリガーになってしまったのだろうか。個人的にはムヨルにそこまで思い入れはない*7のだけど、彼が主人公に据えられるのは納得がいく。

 

ヨンジェ

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 ヨンジェの歪み方が好き。全編通していらないことしかしない・うるさい・嫌なやつ・愚かで、「いくら見た目がキム・ヨングァンでもちょっと無理」とは思うけれど、彼の本質は弱さにあり、本当は皆から愛されたいのに傷つくのが怖くて暴れてしまう子(しかもそれが母親から受けた虐待のせい)、というベタな設定によって愛しさに転化してしまうからずるい。

 面談時にじっとヨハンを見つめる表情を見ていると、この子はこういう顔で母親の機嫌を窺っていたのかもしれないな、とたまらない気持ちになる。チフンが殺されるきっかけを作ったのは自分なんだ、という罪の意識に苛まれる表情や、ウンソンへの歪んだ感情の吐露といった、彼の本質が垣間見える瞬間にどうしようもなく愛おしくなる。チフン死亡*8に関しては、罪の意識をどうしたらいいかわからなくて暴れてしまうヨンジェと、ひとり静かに抱え込むガンモの対比もよかった。

 ヨハンは全てを壊してしまったけれど、その一方で、強制的に自分の弱さを皆に見せることになって、もしかしたらヨンジェは少し救われたのかもしれない。心からの笑顔で皆の輪の中に入っていけたのはあれが初めてなんじゃないかと思うし。

 

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▲ビハインドだと思うのだけど、めっちゃくちゃかわいいので共有です。

 

チフン

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▲わたしはチフンがいちばん好きです。

 

 クラスメイトの顔や名前すら覚えず、常に理性で動く孤高の天才かと思いきや、実は「前頭葉に障害があって感情の伝達が苦手」という事実が明かされるチフン。彼にはそれ以外に闇は見当たらない(そもそも前頭葉の障害を彼の闇と呼んでいいのかすらわからない)のだから、巻き込まれ事故としか言いようがない。彼の存在自体が周囲にとってはプレッシャーで、無意識に劣等感製造マシーンになっていたとはいえ、彼自身に罪はないはずなのに何度も死にかけていて不憫。チフンがヨハンに面談されないのも彼に大した闇がないからだと思う。

 どんなことが起きても基本的に冷静なチフンが唯一心を乱したのが、ジェギュの「ごめん」という言葉に対してだったというのが個人的に胸熱だった。ジェギュは(周囲を歯牙にもかけないいけすかない人間だと思っていたチフンがそんなに悪いやつではなかったということに気づいているので余計に)自分が手紙を送ったせいでこんな状況に巻き込んでしまったことに関して謝罪の言葉を口にしたのだけど、たぶんチフンは「なぜジェギュが謝るのか」というのが理解できなくて困惑したのだと思う。チフンは感情が理解できないけれど、人間の行動についてはある程度予測をたてられるはずなのに。

 惨劇脱出後、ちょっと仲良くなったチフンとジェギュのほのぼ日常二次創作読みたいなとか思ってたわけですこの時点では。お昼ごはん一緒に食べない?っておずおず声かけるジェギュと別に断る理由もないから一緒に食べるチフンとか見たかったじゃん。そんなほのぼのな感じにはもうなれないじゃん。学校脱出後に皆からギプスに寄せ書きされたり、ムヨルのたんこぶを触ろうとしたりする姿を本当に微笑ましく見てたんだこっちは。やっぱりヨハンのことを許さない。

 

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 チフンが好きなだけでソンジュンに興味があるわけではないなと思ってたけど、モデル仕事を見てたら好きな気がしてきた。片方の口角を上げて笑う仕草、オールウェイズマイフェイバリットビヘイバー。

 

ミル

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 ミルにはそもそも手紙が届いていない。ユンスがミルに着せた濡れ衣のせいで退学になるかもしれないことに怒って学校に忍び込んでいただけだったのに巻き込まれてしまった、いや、巻き込まれにいった。そういう星のもとに生まれた男がミルなのかもしれない。

 異分子であるはずのミルが、まるでヒーローかのようにピンチの場面にあらわれる。人が成し得ないことをやってしまえるという点でも、作中で最もヒロイックなのはミルだった。本当にそれを望んでいたのはムヨルだったけれど。「狂ってる」と揶揄されはするけれど、ミルの存在は基本的に太陽だと思う。そんな彼までが〈悪〉に絡めとられてしまうのが悲しい。ミルの場合はストーカー女がトリガーだったのかなと思うと謎の悔しさがある。

 

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▲これ本当にかわいい

 

ユンス

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 本当に〈天使〉になってしまったのね。

 

 

 

余談

 キリスト教的世界観を意識してつくっているのかなと思わせる設定が多々見受けられた。目についたものを挙げてみる。

 

  • 舞台設定:クリスマス
  • それぞれに罪を背負った7人の子供たち(※)=七つの大罪っぽい
  • 精神科医の名前が「ヨハン」=ヨハネ
  • ヨハンの支配下での食事風景:『最後の晩餐』の絵面っぽい

 

 「罪を背負うのが7人の子供」というのは、本当は先生も手紙を受け取っているから微妙かなとも思うし、なんならミルが(予想外に)あらわれてしまうけれども。でもまあほら、結局のところヨハンは自分の罪を赦されたかったわけだから、子供たちは生贄の子羊だったと言えなくもないし。ストーカー女(ストーカー女と呼んでたらついに名前を覚えられなかった……)もマグダラのマリアっぽいような気もするし。キリスト教のことなんにも知らないから思いつきでしゃべってるけど。

 

 

*1:つまりわたしのことです

*2:特にユンスは薬でラリってただけ、チフンはただ存在してただけで、大した罪を犯したわけでもないのにね……

*3:ヨ・ジングが本当にかわいい

*4:主に豊田利晃の話をしています

*5:どころかデジタル配信すらされてなさそう

*6:たぶん公式……字幕はないです

*7:キャラ萌え的なものがない

*8:勘違い