夢と現実いったりきたり

ナショナル・シアター・ライヴ『リーマン・トリロジー』

 

原題:THE LEHMAN TRILOGY

作:ステファノ・マッシーニ

翻案:ベン・パワー

演出:サム・メンデス

主演:アダム・ゴドリー、サイモン・ラッセル・ビール、ベン・マイルズ

上演劇場:ピカデリー劇場(ロンドン)

上映時間:221 分(休憩含む)

 

STORY

 世界的な投資家リーマン一家が米国に移住した1844 年から2008年のリーマン・ショックが起こるまでの3世代にわたる栄光と衰退を描く舞台で、ナショナル・シアター上演時にはチケット完売を記録した注目作。主演の3人が約3時間にわたり、150 年以上にわたるリーマン家の歴史を演じ切る。

2020 年3月7日からはブロードウェイ公演も予定されている。

 

感想

 NTLをどこかで観てみたいなと思っていた+舞台美術が好きな感じだった+ちょうど日曜の上映回に空席があった、ということで観てきました。サム・メンデスの監督作は1本も観たことないし、映像で著名だからって舞台の演出がいいとも限らないし……って思ってたけど、そもそもサム・メンデスって舞台の演出家としてキャリアをはじめたんですね。いま調べた。

 

 正直、上演開始してしばらくは「失敗したかな」と思った。『リーマン・トリロジー』はすべて三人称の〈語り〉で進んでいく。圧倒的に会話劇が好きなわたしはもしかしたら合わないかもしれないし、合わないもののために4時間弱座っているのは、劇場ならいざ知らず、スクリーンだとかなりつらいものがある。しかも前日ソワレで舞台を観てからの早起きのせいでそもそも眠い。実際何度か怪しいところはあった……けれど、「これはリーマン・ブラザーズをめぐる叙事詩なんだ」と理解してからは、ぐいぐい引き込まれてしまった。

 

 わたしは「台詞のリフレイン」が大好きで、本作もそれがとても楽しい演目。だからどうしても字幕で観ていることが惜しまれた。リフレイン、音で入ってくるからこそ心地よい、ということにここで気がついた。演劇を観るときは言葉を文字に変換せず、音として捉えていることにも。英語ができないなりにヒアリングで観るように努めてみたけど、字幕があるとやっぱり頼ってしまう。

 

 3名の役者が語りと劇中のすべての登場人物をくるくる演じ分けるのも見どころ。アダム・ゴドリー55歳、サイモン・ラッセル・ビール59歳、ベン・マイルズ*153歳と、若くない男性なのだけど、彼らの演じる赤子も女性もとってもキュートだ!と思って観ていたので、笑い声(恐らく現地)が起こるのが結構謎だった。他の観客と笑うポイントが合わない問題・国際版が発生……。

 

 ストーリーは脚色は入ってるとはいえ歴史だからなんとも……リーマン・ショック以外の知識のないわたしにとっては「芝居でわかるアメリカの歴史」って感じ。カードの話とか綱渡り師の話とかバベルの塔とかの比喩表現は大好物。でも全部語りで解説されてしまうから、想像や解釈の入る余地はない。いわゆる「エモーショナル」を持ち込むことは許されないんだろうな、という印象を受けた。すべて演出のコントロール下に置かれてて折り目正しくて、それが逆にセクシー、みたいな。人間の感情の昂りを観たいがために演劇を観に行っているところがあるから、圧倒的熱量!エモーショナル!の力に捻じ伏せられるのも大好き(だからこそミュージカルを観る)だけど、こういうのも観てて心地よくて好きだなと改めて思いました。

 

 

 

 

*1:とてもキュート