夢と現実いったりきたり

『ねじまき鳥クロニクル』

2/15(土)ソワレ@東京芸術劇場プレイハウス

 

STORY

岡田トオルは妻のクミコとともに平穏な日々を過ごしていたが、猫の失踪や謎の女からの電話をきっかけに、奇妙な出来事に巻き込まれ、思いもよらない戦いの当事者となっていく――。

トオルは、姿を消した猫を探しにいった近所の空き地で、女子高生の笠原メイと出会う。トオルを“ねじまき鳥さん”と呼ぶ少女と主人公の間には不思議な絆が生まれていく。
そんな最中、トオルの妻のクミコが忽然と姿を消してしまう。クミコの兄・綿谷ノボルから連絡があり、クミコと離婚するよう一方的に告げられる。クミコに戻る意思はないと。
だが自らを“水の霊媒師”と称する加納マルタ、その妹クレタとの出会いによって、クミコ失踪の影にはノボルが関わっているという疑念は確信に変わる。そしてトオルは、もっと大きな何かに巻き込まれていることにも気づきはじめる。
何かに導かれるようにトオルは隣家の枯れた井戸にもぐり、クミコの意識に手をのばそうとする。クミコを取り戻す戦いは、いつしか、時代や場所を超越して、“悪”と対峙してきた“ねじまき鳥”たちの戦いとシンクロする。暴力とエロスの予感が世界をつつみ、探索の年代記が始まる。

“ねじまき鳥”はねじを巻き、世界のゆがみを正すことができるのか? トオルはクミコをとり戻すことができるのか―――。

 

CAST

演じる・歌う・踊る

成河/渡辺大知:岡田トオル
門脇麦:笠原メイ役
大貫勇輔:綿谷ノボル役 
徳永えり:加納クレタ/マルタ役
松岡広大:赤坂シナモン役 
成田亜佑美:岡田クミコ役 
さとうこうじ:牛河役
吹越満間宮中尉役 
銀粉蝶:赤坂ナツメグ

特に踊る

大宮大奨、加賀谷一肇、川合ロン、笹本龍史
東海林靖志、鈴木美奈子、西山友貴、皆川まゆむ 

演奏

大友良英、イトケン、江川良子

 

感想

 前提として、村上春樹が好きじゃない。とはいっても短編集を1冊読んだきりなのだけれど、女の描き方にえもいわれぬ気持ち悪さを感じてどうしても合わなかった。じゃあなんで観に行ったのかというと、「成河の芝居が観たい」とふと思ったからです。村上春樹という理由で一旦立ち止まったものの、あらゆるユース割(今回はU25があります)は使えるうちにガンガン使っていこうと思ったのと、メルマガで成河本人からのメッセージを受け取った*1のがダメ押しになって観にいくことに。

 

 結論、村上春樹やっぱり無理……という気持ちは変わらないけれど、舞台として面白い!という気持ちも反発せず共存するという不思議な体験になった。

 なにがいいって、演出がめちゃくちゃいい。演出はインバル・ピントと、マームとジプシー主宰の藤田さんのふたりが手がけているとのこと。逐一解説しろと言われたら言語化するのは(少なくともわたしには)難しいけれど、感覚としてはすとんと落ちてくる、そんな演出。

 

 まず〈踊り〉。劇中、登場人物たちは少しの移動の際も踊っていて、「普通に歩く」ということをほぼしない。エーッ人間ってそんな動きできるの!?と単純に興奮できる。身体性のオタクは本当に楽しく観られると思う。プールの場面でふと「超豪華な仮装大賞か?」と思ったり思わなかったりしたけどこれはわたしの問題。逆に考えると仮装大賞ってすごいのでは。

 

 そして〈歌〉。詳細を確認しないまま劇場に向かってしまったせいで歌が入ることすら知らず、そもそもオケがいることにびっくりしてしまったのだけれど、観てみて「そりゃ生オケになるわ」と納得した。音がこの芝居を成立させるうえでとても大事な要素だということがわかる。ただし、ミュージカルか?と言われたら首を捻る。これはミュージカルではない。渡辺大知の歌、特に初デート回想後の、全て受け入れよう、と歌うシーンが震えるくらい素晴らしかった(そういやこのひとって黒猫チェルシーでした)けど、ミュージカルだったら渡辺大知のこの歌にはならないと思う。じゃあなんなんですか?って言われたら答えられない謎ジャンル……ジャンルで括ること自体がナンセンスか。謎の手触りを謎のままに触り続けていく感覚。

 

 個人的には吹越満が自分の体験を語るところの演出が一番好き。灯りを操ることで場面が鮮やかに展開していくのが、記憶の中の話なのに臨場感と緊張感がビンビン伝わってきて最高。というか吹越満かっこよすぎるぜ……

 

 

 ストーリーに関しては、読み解こう!と思って臨んでいなかったから細かな読解はできない。Wキャストで演じられる岡田トオルは、渡辺大知=肉体のトオル、成河=意識のトオルであると言い切っていいかなとは思う。大して背格好似てないよねと思ってたら「大きい人と小さい人」って言われてたから敢えてなのか。1幕は肉体のトオルが見る世界が中心だから渡辺大知がメインで、2幕は意識の世界の話だから成河がメインに切り替わる。行方不明になった妻を取り戻しにゆくのは日本神話やギリシャ神話の黄泉の国の話を思い起こさせる。すごいどうでもいいけどこのふたつが似たような話になってるのは偶然って元型まわりの話を調べてたときに読みました。トオルが妻の姿を見ようとしない(妻も灯りを向けられたがらない)のもそれっぽい。

 

 それに加えて、遠藤周作が言う「死を志向する/下降する力」の話を思い出した。この世には罪と悪とがあって、罪っていうのは実は「X(=キリスト教徒の遠藤周作にとっては神)」を志向してるから救えるんだけど悪の方はひたすら下降してくから救えない、みたいなそういう……うろ覚えすぎるけど、そういうことを生涯考えてたらしい。悪の方もなんとか救えるんじゃないか?って試行錯誤してた形跡が面白いので、遠藤周作の小説以外も読んでください。話がそれた。笠原メイがトオルに語って聞かせた制御できない衝動の話が、遠藤周作の尊先*2、フランソワ・モーリヤックの『テレーズ・デスケル*3』の主人公テレーズが語る衝動の話とかぶるのも含めて、エッセンスだけ取り出したときに肌馴染みがいいテーマだった。ねじまき鳥とか占い師とかそのへんのことは知らん。ストーリー度外視しても演出のおかげでずっと楽しく観られるから大丈夫です。演出が合わなかったら終わりだけど。当日券出てるよ!

 

 最後に、下書きに「カテコで誰より早く捌ける成河がキュート」って書いてあったので共有しておきます。真ん中にいたのにサササササーッて消えていったから謎。

 

 

*1:どんなオタクのブログよりも面白い成河のブログとメルマガ、購読無料です

*2:尊敬する先輩

*3:マジで面白いから読んでください