夢と現実いったりきたり

小西アンリのすべてを解き明かしたいと考えている(だけ):ミュージカル『フランケンシュタイン』

1/17 マチネ、1/29 マチネ

 

 残すところ楽日のみとなったフランケン東京公演。楽日を観る前にかきこににおける小西アンリについて思いつくもろもろを整理しておきたい。気を抜くとすぐに「もう小西アンリの顔がかわいいことしかわからない」と言い出すので。

 

 柿澤ビクターと小西アンリはあまりにも人間同士の話すぎて、「つらいよう……悲しいよう……」と嘆くほかない。先日観たかきかずがとんでもなくて揺らぎかけたけれど、やっぱりわたしはかきこにに生きてかきこにに死す!と操をたてました。

 

 小西アンリは、最後の瞬間までビクターと共に生きたがっていた。共に夢を見たがっていた。だけどビクターをうしなって自分が生き残るくらいなら、罪を被ってビクターを生かす選択をする。だから〈君の夢の中で〉のラスト、「君の夢で/生きよう」のタメで苦しい表情もするし嗚咽も漏らす。彼はビクターのために殉教したかったわけではない。面会に来たのがビクターだとわかって、強張った表情から一転笑顔をつくってみせるのは、残されるビクターに余計な負荷をかけたくないという彼なりの気づかいだったのだろう。アンリがビクターにかける「笑ってよ」「泣いちゃだめだ」という言葉は呪いのように響くけれど、ぐずぐずに泣いているビクターを見ていたらアンリ自身が揺らいでしまうからこそ、こういう言葉をかけなければならなかったのだと思う。そういうところがどこまでも人間くさかった。

 出会ったその日を回想して、「夢見る君の瞳に恋をした/激しく」とおどけたように笑ってみせる小西アンリ。冗談めかしているけれど、本心だったのだと思う。挫折した生命の創造にもう一度取り組むという意味でも、見失った生きる意味を手にしたという意味でも、ビクターはアンリの道を照らすまばゆい太陽になっていた。

 

 アンリがどのような背景で研究をおこなっていたのかは語られることがないが、研究に心残りがあっただろうことは予想されるし、だからこそビクター・フランケンシュタインの名を聞いたときに跳ねるように反応したのだと思う。人間への絶望とはつまり、科学の進歩も結局は殺人に利用されてしまうことへの憂いであって、「死体を蘇らせて兵士にする」ビクターの研究所への配属を拒絶するのも理解できる。

 しかし実際、ビクターが見据えているのは死を駆逐することであり、それはアンリの信念とも重なるものだ、と判明してからは、神への畏れ=生命創造に対する倫理面での葛藤だけが残った。〈ただ一つの未来〉で描かれるのはこの葛藤だ。アンリはビクターの言い分に「詭弁だ」「野望だ」と反論しつつも大きく揺らぎ、最後には不遜にも神に挑むビクターの姿に希望を見たのだ。

 

 ビクターの故郷・ジュネーヴに戻ったときにはすでに戦争は終結し、ビクターは勲章をもらっている。つまり、アンリの最初で最後の仕事は既に終了(それも成功)している。「解放してやる」と言われたにもかかわらず、アンリはビクターから離れなかった。ビクターこそがアンリの人生の道標だったからだ。ビクターと共に夢を見ることがアンリの生きる意味なのだから、ビクターに連れ立つのは必然なのだが、ビクターにはそれがわからない=アンリの想いは伝わっていない。(柿澤ビクターは周囲からとてつもない愛情を受けているが失うまでそれに気づかない男なのでビクターのせいでもある)アンリからビクターへの重めの感情は〈君の夢の中で〉でようやく伝わる。酒場での立ち居振る舞いを見る限り、小西アンリはバランス感覚にすぐれた人間に見えるので、それまではビクターにあえて見せていなかったのかもしれない。

 

 あまり身辺を明らかにしないアンリが酒場で自身の生い立ち(といっても「親がいない」ことだけだが)を唐突に告白するのは、言うまでもなくその前にエレンからビクターの亡霊について聞いたからだ。亡霊を知った小西アンリは、柿澤ビクターをひとりにしてはいけないことをわかっていたように思う。だからこそ、〈君の夢の中で〉の苦しい表情があるんじゃないか。そう思うと、初見時に「あんなになってるビクターを置いて死ぬな!笑ってよ……とか言うな!」ってキレてごめん、小西アンリも言わざるをえなかったんだよな……

 

 

 ということをぐるぐるぐるぐる考えて、小西アンリに近づいたと思ってはまた遠ざかり、を繰り返して結局「神経質そうな顔がかわいいなあ」に落ちついてしまう。すべてを解き明かしたいのに。そんな小西アンリが好き。明日こそ小西アンリのことがわかりますように。

 

 某日に客席で鳴り響いた菅田将暉の『まちがいさがし』がめちゃくちゃアンリのイメソンにふさわしいとわたしの中で話題なので、共有して明日に備えて寝ます。

まちがいさがし

まちがいさがし

  • 菅田 将暉
  • J-Pop
  • ¥255