夢と現実いったりきたり

よくわからないまま花組『MESSIAH-異聞・天草四郎-/BEAUTIFUL GARDEN-百花繚乱-』を見てきました

9/29(土)15:30@東京宝塚劇場
kageki.hankyu.co.jp

 

 先月、雪組の『凱旋門』を見たばかりですが、今回は花組を見てきました。なんでチケットをとったのか定かではないのですが、多分周囲のヅカオタからの「BGを見ろ」という圧力に屈したからだと思います。雪組については事前に『ひかりふる路』を見ていたので数名はわかる状態だったのに比べ、花組は全然知識がない……果たして楽しめるのかしら……という心配は杞憂に終わりました。めーーっちゃ楽しかったです。

 

MESSIAH

 結構悪評を見かけていたので、どんなもんや……と構えてかかったけど、普通に面白かったです。嫌いじゃないです。ラストの十字架についてはちょっとどん引いたけど。品がないなって。ただ、お話本体に対してというより、リノの感情にグッときたというのが正しいかもしれない。リノという人の信仰と四郎に対する感情にグッとこないオタクはいません!レベルのとんでもなさ。

 

 この苦しい状況下で、一体神が何をしてくれたというのか、祈り続けて何になるのか、皆の中に神はいるのだ、立ち上がろう、という四郎を救世主だと崇め、熱狂するっ民衆たちの中、リノだけはじっと黙って(歌にも参加していない)、何かを考えながら十字を切っている。リノにとっては四郎の考え方は受け入れがたいもので、熱狂に加わることはできない。それは彼がずっと信仰し続けてきた神を棄てることと同義だから。だからこそ、彼は自分の神に向かって祈り続けた。人々の神への信仰は、言ってしまえば苦しい生活を紛らわすためにあったようなものだったから、祈り続けても解決しない現状に、「神などいるのか?」という不安をどこかしらに抱えていて、ゆえにその不安を口に出してくれた四郎を熱烈に支持するけれど、リノの信仰はもっと揺るぎないものだったように思う。微妙な物言いになるけれど、「本当の」信仰を持っていたのはリノひとりだったのかもしれない。

 

 リノは彼の信仰に忠実であるために、四郎のもとで共に戦う、という選択はできなかったけれど、しかし一方で、現状を放置しておけるわけでもなく、一揆の成功は祈っているわけで、そこのジレンマの落としどころとしてのあの旗なんだなって。喜ぶ四郎に「あんたのためじゃない」って言うのめっちゃかわいいですよね。で、そんなリノがせっかく幕府側との交渉人に名乗りを上げたというのに、「四郎の首を持ってこい、そしてその後棄教すれば、攻撃はしかけない」という無理な条件を出されてしまうという。四郎に暴言を吐きかけて、わざわざ戦う理由をつくる姿を見ていたら切なくなってしまった……。あの時点でのリノは四郎の人間性を十分認めていたと思うし、そんな四郎を手にかけるために、わざわざ自分に暗示をかけている部分もあったと思うので。ありえないIFだと思うけど、もしあそこでリノが四郎の首を取っていたとして、その後棄教なんて出来なかったと思うんだけど。そういう条件出すのよくないと思うよ幕府~~

 

 地下牢*1に入れられて、朝日が昇るのを見つめるリノのところに現れて鍵を開ける四郎、リノの行動の理由を全部お見通しだったんだ~さすが四郎さん!って言おうと思ったらまさかの鈴木。鈴木、十万石おかしくない?って進言したところからちょっと推せるな……と思ってたら、やっぱりめちゃくちゃいいやつ。四郎が死ぬところで泣いてたのも鈴木ですよね? 最後もやっぱり鈴木がめちゃくちゃいいやつ……と思って終わった。めっちゃいいやつだけど、大名社会で生きていくには不器用なんじゃないかな。鈴木のこと好きだから、私は心配です。っていう鈴木の話は置いといて、ここで四郎に十字架背負わされるリノがいとおしい。その後、 島原の乱を起こした民衆のうち唯一の生き残りとして、ひとり十字架を背負ってひっそりと生きていく、そういう男が私は永遠に好きなんだと思う。

 

 そんなリノが少し前を向くきっかけになるのが、権力によって都合よく書き換えられてはならない、お前がただしい真実を伝えてくれ、という将軍のひとこと、そして鈴木。鈴木は最高。最後に四郎たちが現れるところ、すごく絵画的だなと思ったんだけど、リノが描いた絵という可能性も無きにしもあらずなのでは……。ずっと神を描いてきて、四郎を救世主として崇めるのを拒否してきたリノが四郎を描いているとしたらめちゃくちゃ感慨深い。

 

 リノ(と鈴木)以外だと、視覚的にバチっとくる演出が多くてよかった*2。事前情報として、原田先生はショーをよく作ってて、ビジュアルにこだわりがある、というのを聞いていた通りだなという感じ。

 視覚の話でいうと、四郎とリノの衣装が赤と青の対比になっているのは意図してだと思う。宗教画で赤=天の愛情、青=天の真実をそれぞれ示す(諸説あるようですが)*3という話もあって、それが愛情で島原の人々を導いた四郎、生き残って真実を後世に伝える役割を担ったリノ、というのにもぴったり当てはまるので。こんなにあからさまな二人なのに、リノから四郎への感情はものすごく拾いやすいわりに逆はあんまり印象に残ってないのが不思議。リノばっかり見てたからというのもあるのかもしれないけど。

 

 

BEAUTIFUL GARDEN

 文句なしでめーーっちゃ楽しいショー。世界観がANNA SUI。色んな場面があるけど、私が一番気に入っているのは闘牛の場面。そもそもマタドールの衣装が好きというのもあるけれど、なによりも牛(に扮した死、もしくはマタドールの影)を演じている水美さんが良すぎてずっとオペラグラスで追ってました。いちいち表情が全部良いし水美さんの身体性もめちゃくちゃ素敵で完全に“恋”っぽい。それにしても概念の擬人化とそれに惑わされる人間の構図が好きすぎる。語りを担当してた鳳月さんもパッと目を引くビジュアルで最高だった。あとは柚香さん中心に娘役が青い服着て円になってるところも好き。そもそも青が好き。バカだから青い!好き!って思った。かっこいい。

 

 最後の紫(すみれ色?)の衣装でエターナルガーデンタカラヅカ~~♪って歌ってるところも好き。そうかタカラジェンヌの人たちって基本的に「宝塚が好き」ってところから出発してるんだなっていうのを改めて感じたり、なんかあったらここに戻っておいで、って宝塚からやさしく語りかけられてる気持ちになって、社会の世知辛さを日々感じてる身にはめちゃくちゃ沁みた。完全に教化された気分。

 

 

 ショーの感想めちゃくちゃ短いけど、全てが最高ゆえに逆に言及しづらいということです。余談ですが、観劇後ヅカオタに囲まれてご飯食べてたんですけど、ヅカジョークが全然わからなかったので、私の修行はまだ始まったばかりだなと思いました。果たして私が今後ヅカオタになるのか否かは私にもわかりませんが。とりあえず次は月組エリザベートを見に行きます。BADDYを見せてもらった感じだと愛希さんと月城さんが好きだと思います。楽しみです。

 

 

 

*1:これ十字架の下にあったの笑っちゃったんだけど……

*2:十字架は除く

*3:美術と「色」 | 2016年度「色」 | 南京大学集中講義 | LAP: TODAI Liberal Arts Program